大塚英樹の「成功するトップの絶対条件」=4
茂木友三郎(キッコーマン名誉会長)
改革には、「三現」の体感

危機をチャンスに変えた好調企業のトップたちは、どこが違うのか? なぜ、このトップたちは、会社を成功させ続けることができるのか? 500人以上の経営トップに密着したジャーナリスト・大塚英樹氏の近著『「使命感」が人を動かす 成功するトップの絶対条件』で明かされた、11人のトップそれぞれの「答え」とは何か? 短期連載の第4回はキッコーマンの茂木友三郎名誉会長に学ぼう。

現場・現物・現実の「三現」を体感

 改革をリードする経営者に共通するのは、その企業の事業についての現場感覚があること、事業に精通していることである。

 社長が現場の実態を体感できていることほど、企業経営に重要なことはない。トップとして鋭角的な意思決定を行うには、現場に自ら頻繁に足を運び、現場の生情報を肌で感じ取り、意思決定を行うことが不可欠である。

茂木友三郎(もぎ・ゆうざぶろう) キッコーマン名誉会長。1935年、千葉県野田市生まれ。慶應義塾大学法学部卒業 後の1958年、野田?油(現キッコー マン)に入社。1961年、コロンビア大学経営大学院経営学修士課程修了(MBA取得)。海外事業部長などを経て、1995年、キッコーマン代表取締役社 長 CEOに就任。2004年、代表取締役会長 CEO。2011年より取締役名誉会長 取締役会議長となる。photo 鬼怒川毅(『フライデー』掲載)

 その点、茂木は、社長就任(1995年)前から現場・現物・現実の「三現」を体感している。

 トップが現場と商品の特性、その需要の実態などを体感できているからこそ、米国進出を成功に導き、また、「たれ」「つゆ」など新規事業を軌道に乗せることができたと言える。

 とりわけ米国進出は、茂木が断固たる実行の大切さを主張し、自ら率先垂範して、その舞台づくりを行ってきた。

 工場進出に当たり、まず米国人の経営コンサルタントを雇う。コロンビア大経営大学院時代のクラスメートだ。彼の助言を得ながら建設候補地を絞り、立地条件、優遇措置等を比較、検討して最終的にウィスコンシン州ウォルワースに決めた。

「生産規模年9000キロリットル、投資額40億円」も、茂木が米国プロジェクトの実務リーダーとして集めたデータをもとに、需要を予測し原価計算をした数字だ。

 それだけではない。法律事務を地元の法律事務所に依頼したのも、工場建設に反対する住民の説得に当たったのも、茂木自身であった。

 前述のように、茂木は農家を戸別に訪問したり、公聴会や町議会に積極的に出向いたりして、説得を続けた。

 理解が得られたのは茂木の情熱に加え、明るく、篤実な人柄が住民に好感を与えたからだ。

 茂木は、米国の消費者が何を求めているかを自分の肌で感じていた。大学院に留学中、醤油のデモンストレーションを何度も手伝った。スーパーで、醤油を付けて焼いた牛肉の小片をお客に渡すと、お客はおいしそうに食べ、醤油を買ってくれるのだ。塩、コショウだけで食べるのが基本の米国人にとって、醤油味のステーキは新鮮だっただろう。

 そのとき以来、醤油は肉に合う調味料として必ず米国人に受け入れられるはずだと、信念を持ち続けた。茂木に現場感覚がなければ、国際企業への第一歩となる米国進出は実現していなかっただろう。

 もう一つは、「つゆ」「たれ」分野への進出の際の“確信”である。

 茂木は常務時代(82~89年)から、付加価値の高いつゆ・たれの製造に踏み切るべきだと主張し続けてきた。つゆ・たれは、女性の社会進出に伴い需要が急増、94年には、一所帯あたりの支出が醤油を上回っていた。スーパーを回ると、どこも、つゆ・たれの陳列スペースは大きく確保され、しばしば店員が商品を補充している光景を目にした。

 茂木の主張に対して、国内営業部門が、「つゆ・たれメーカーは、原料用の醤油をウチから仕入れているお客さんだ。取引先が黙っているわけがない」と猛反対した。

 しかし、茂木は社長になると、社内の反対を押し切って「本つゆ」の発売に踏み切った。営業部門の言った通り、つゆメーカーから取引を停止された。翌年、焼き肉用の「赤だれ」「黒だれ」を発売すると、取引先のたれメーカーが取引停止を通告してきた。

 それでも、「ウチは、つゆ・たれメーカーの下請けではない。付加価値の高いつゆ・たれの製造は需要の創造に繋がり、社会のためになる」という茂木の信念は揺るがなかった。

 現在、同社のつゆ・たれ部門の業績は好調に推移、基幹事業に成長している。茂木が業界の常識に囚われず、ただひたすら顧客の立場に立って考え抜いた結果と言える。

 さらに、茂木は02年、惣菜の素「うちのごはん」を発売した。働く主婦の「手早く作りたい」という要望に応えた商品だ。今ではヒット商品に育っている。これら新分野は、現場を体感できている茂木が、自社が取り組む事業を新たに創造した結果である。

「使命感」が人を動かす
著者:大塚英樹
刊 / 定価:1500
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喜び、苦悩、決断、夢、志、失敗と成功・・・15人のトップから、生き抜く知恵が見えてくる

登場するトップは以下のとおり。志太勤(シダックス取締役最高顧問)、鳥羽博道(ドトールコーヒー名誉会長)、飯田亮 (セコム取締役最高顧問)、塚本能交(ワコールホールディングス社長)、櫻田 厚(モスフードサービス会長兼社長)、茂木友三郎(キッコーマン名誉会長)、堀 威夫(ホリプロ ファウンダー最高顧問)、伊東信一郎(ANAホールディングス社長)、松本南海雄(マツモトキヨシホールディングス会長)、金川千尋(信越化学工業会長)、根岸秋男(明治安田生命社長)、大野直竹(大和ハウス工業社長)、新浪剛史(サントリーホールディングス社長)、正垣泰彦(サイゼリヤ会長)、小林章一(アルビオン社長)。この15人に生き抜く知恵を学ぼう。(肩書は本書出版時のもの) 

大塚英樹(おおつか・ひでき)
1950年、兵庫県に生まれる。ジャーナリスト。テレビディレクター、ニューヨークの雑誌スタッフライターを経て、1983年に独立してフリーランサーとなる。以来、新聞、週刊・月刊各誌で精力的に執筆活動を行い、逃亡中のグエン・カオ・キ元南ベトナム副大統領など、数々のスクープ・インタビューをものにする。現在は、国際経済を中心に、政治・社会問題などの分野で幅広く活躍する。これまで500人以上の経営者にインタビューし、とくにダイエーの創業者・中内功には1983年の出会いからその死まで密着を続けた。著書には『流通王――中内功とは何者だったのか』『柳井正 未来の歩き方』『会社の命運はトップの胆力で決まる』(以上、講談社)『続く会社、続かない会社はNo.2で決まる』(以上、講談社+α新書)などがある。

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