大塚英樹の「成功するトップの絶対条件」=11
小林章一(アルビオン社長)
社員が主役

危機をチャンスに変えた好調企業のトップたちは、どこが違うのか? なぜ、このトップたちは、会社を成功させ続けることができるのか? 500人以上の経営トップに密着したジャーナリスト・大塚英樹氏の近著『「使命感」が人を動かす 成功するトップの絶対条件』で明かされた、11人のトップそれぞれの「答え」とは何か? 短期連載でお届けする。第11回はアルビオンの小林章一社長に学ぼう。

「社員満足度」重視の経営

 経営者の使命は、顧客にとって価値ある商品とサービスを提供することだ。それを実現するのは社員である。それだけに、社員のモチベーションが鍵を握る。

 社員は、会社の命令や指示では動かない。たとえ動いても「やらされ感」があるため、自発的な動きではない。モチベーションが高まるのは、納得したときだけだ。社員が自分の頭で考え、自らの責任で行動する。そんな企業風土をつくれば、目標を達成したときの達成感は深い感動に変わる。仕事に楽しさを見出し、生き甲斐を感じるようになる。その結果、会社へのロイヤルティが高まり、モチベーションは高まり、一層やる気が出てくる。会社の業績も上がり、給料も上がり、大いなる満足感が得られる……。

小林章一(こばやし・しょういち) アルビオン社長。1963年、東京都生まれ。慶應義塾大学法学部卒業後、1986年、西武百貨店に入社。1988年、株式会社アルビオ ン入社。1991年、取締役に就任。1995年、常務取締役、マーケティング本部長に就任。1999年、営業本部長。2004年、代表取締役副社長。 2006年より現職に。2014年より東京農業大学客員教授も務める。写真提供/アルビオン

 小林は、社員の満足度を大切にしている。同社が増益更新を続ける要因の一つは、「社員が主役」の会社づくりにある。社員のロイヤルティ、モチベーション、情熱、連帯感、チームワーク、それに何よりも顧客第一主義からくる顧客への感謝が見事に息づいている。

 企業風土を築いているのは、18人の支店長だ。

会社の顔である支店長が中心となって、社員の心を燃やし、社員がシナリオを描いて、自発的に行動するような環境を作っている。支店長は営業の仕事を、「取引先の店との信頼関係を作ること、店にいかに接客してもらうかに腐心すること」だと考えている。

そして、現場を鼓舞すると同時に、現場の情報を逐一トップに上げ、変化の実態を伝えている。いわば私の言う“№2”の役割を果たしている。

 小林の「社員満足」への腐心は随所に表れる。例えば2014年6月には、3000人の全社員に一律10万円の一時金を手渡している。8%への消費増税の影響で業績が低迷する化粧品業界の中、同社は営業利益(13年度)を前年同期比70%増へ拡大させた。一時金は、社員の努力に報いる「報奨金」だ。社員は、目に見えるかたちで、努力したと実感できる。折々、良い循環を起こしているということが、社員に実感できるように気を付けていくことが大事だという。

 小林は、いかに小さな成果であっても、社員に成果が得られていることを実感できるようにして情熱を喚起する。毎年各支店で選ばれた「最優秀美容部員」を全員、伊豆・修善寺(静岡県)の老舗宿に招待、慰労するのもその一つだ。

「貢献する社員には、お金を惜しみません。勉強会、食事会、視察旅行など会社が費用を負担し、社員の日ごろの功労に報いる。すると社員は誇りを持つことができ、仕事へのロイヤルティも高まり、結果的にチームワーク力の高揚に繋がります」

 また、小林は社員が自分の仕事に誇りを持てる環境づくりにも心を砕く。09年、東京・銀座に、社員用の事業所内保育所を開設したのは、その表れだ。保育所は、子供を産んだ後も働きたいという現場からの声で生まれた。会社としても優秀な美容部員を失うことは、大きなロスとなると考えたのだ。

 とりわけ小林が「社員満足」にこだわる理由は、「社員不満足」では顧客満足度の高いサービスを提供できないからだ。高級品商売の営業活動の基本は、「人対人」。つまり、商売は「人」で成り立っている。営業はまず、人を売ることから始まる。商品を売る前に人を売り込む。営業担当は取引先の店から、「あなたのためなら頑張る」と思ってもらえるような、信頼される人間になる。商品知識やマーケティングなど、技術論はその後だ。店との信頼関係は、担当者が店に足を運ぶ回数と比例する─。

 小林が店との関係を重視し、支店長に「専門店のマインドシェア№1を目指そう」と訴え続ける所以だ。現在、同社が取引する専門店1500店のうち、約半分がシェア№1になっている。

「大手さんに売り上げでは負けていても、マインドシェアでは絶対負けるな、と言っているのです」

 小林の「社員満足」経営への追求は続く。

「使命感」が人を動かす
著者:大塚英樹
刊 / 定価:1500
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喜び、苦悩、決断、夢、志、失敗と成功・・・15人のトップから、生き抜く知恵が見えてくる

登場するトップは以下のとおり。志太勤(シダックス取締役最高顧問)、鳥羽博道(ドトールコーヒー名誉会長)、飯田亮 (セコム取締役最高顧問)、塚本能交(ワコールホールディングス社長)、櫻田 厚(モスフードサービス会長兼社長)、茂木友三郎(キッコーマン名誉会長)、堀 威夫(ホリプロ ファウンダー最高顧問)、伊東信一郎(ANAホールディングス社長)、松本南海雄(マツモトキヨシホールディングス会長)、金川千尋(信越化学工業会長)、根岸秋男(明治安田生命社長)、大野直竹(大和ハウス工業社長)、新浪剛史(サントリーホールディングス社長)、正垣泰彦(サイゼリヤ会長)、小林章一(アルビオン社長)。この15人に生き抜く知恵を学ぼう。(肩書は本書出版時のもの) 

大塚英樹(おおつか・ひでき)
1950年、兵庫県に生まれる。ジャーナリスト。テレビディレクター、ニューヨークの雑誌スタッフライターを経て、1983年に独立してフリーランサーとなる。以来、新聞、週刊・月刊各誌で精力的に執筆活動を行い、逃亡中のグエン・カオ・キ元南ベトナム副大統領など、数々のスクープ・インタビューをものにする。現在は、国際経済を中心に、政治・社会問題などの分野で幅広く活躍する。これまで500人以上の経営者にインタビューし、とくにダイエーの創業者・中内功には1983年の出会いからその死まで密着を続けた。著書には『流通王――中内功とは何者だったのか』『柳井正 未来の歩き方』『会社の命運はトップの胆力で決まる』(以上、講談社)『続く会社、続かない会社はNo.2で決まる』(以上、講談社+α新書)などがある。

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