大塚英樹の「成功するトップの絶対条件」=10
大野直竹(大和ハウス工業社長)
世に役立つ事業に、利益は付いてくる

危機をチャンスに変えた好調企業のトップたちは、どこが違うのか? なぜ、このトップたちは、会社を成功させ続けることができるのか? 500人以上の経営トップに密着したジャーナリスト・大塚英樹氏の近著『「使命感」が人を動かす 成功するトップの絶対条件』で明かされた、11人のトップそれぞれの「答え」とは何か? 短期連載でお届けする。第10回は大和ハウス工業の大野直竹社長に学ぼう。

川上から川下まで、世の中に役立つビジネスを展開

 企業の経営者には、オーナー経営者型とサラリーマン経営者型の二つのタイプがある。前者には、トップがカリスマ的で、自身が規律そのものであり、強烈なリーダーシップを発揮して、一人ですべての状況を把握し、指示を下していくタイプの企業が多い。重要なのは、この場合、意思決定について、従業員が予測できる可能性は低いということだ。

大野直竹(おおの・なおたけ) 大和ハウス工業社長。1948年、愛知県出身。慶應義塾大学法学部卒業後、大和ハウス 工業入社。以降、静岡支店建築営業所所長、新潟支店長、横 浜支店長などを経て、2000年、取締役。2001年、住宅事業本部副本部長、大阪本店長、近畿地区長。2004年、専務取締役、営業本部副本部長、東京 支社長。2007年、代表取締役副社長、営業本部長。2011年より現職。  写真提供/大和ハウス工業

 それに対して後者には、トップと従業員の双方を律する企業文化が企業に埋め込まれており、社員がそれにしたがって仕事をするタイプの企業が多々みられる。持続的成長を維持していくためには、このタイプに移行していくことが求められるようになる。

 その点、カリスマリーダーだった創業者の石橋信夫が他界して13年目になる大和ハウスは、明らかに後者の類型に移行している。では、同社に埋め込まれている企業文化とは何か─。

 大野直竹に、石橋信夫から遺伝子として引き継がれている重要な点は何かと問うと、「“世のため、人のため”という精神」と答える。

「手掛ける事業はすべて社会に役立つ、社会のための事業でなくてはならない。全社員が自発的に考えるよう、繰り返し訴えています」

 その精神はどこから生まれるのか。石橋信夫は語っている。「顧客の立場に立って商品をつくれ」「顧客は王様である」(著書『不撓不屈の日々』日本経済新聞社)。顧客の立場を原点にしてものを考え、商品やサービスを正しく提供する。自分が顧客の立場だったら、こうしてほしいと思うことをやるのがサービスである。つまり、顧客の立場に立って考えて、正しくやると、結果的に「世のため、人のため」の仕事になるはずだというわけだ。

 その精神は、戸建て住宅、賃貸住宅、マンション、物流・事業施設、商業施設など、コア事業で発揮されている。例えば、テナント企業と土地オーナーを結びつける同社独自の流通店舗事業。衣服、メガネ、ドラッグストア、ファミリーレストランなど、土地を借りて店舗を経営したいテナント企業と、土地活用を考えている土地オーナーを結びつけ、店舗を建てる事業である。

 そのテナント企業の代表例が、創業期のユニクロだ。ユニクロの多店舗展開を可能にしたのは、この流通店舗事業だった。同社の物流施設事業も、事業主からの倉庫の請負にはじまり、テナント企業を地主と結び付け、リース会社が地主から土地を賃借し、建設した倉庫をテナント企業に賃貸する形式を導入した。

 前述したように、最近では同社が土地を購入、物件を建て、それをテナント企業に賃貸する方式や、物件をREITに組み込む方式も採っている。マンションも、世の中の要望に対応して、コンシェルジュ付きの高級マンションなど、また賃貸住宅も女性向けの警備保障付き防犯配慮型住宅などを、業界に先駆けて提供している。

 既存の事業だけではない。高齢者施設、サービス付き高齢者向け住宅、医療・介護用ロボット、スポーツクラブ、都市型ホテル、環境エネルギーといった新事業も、発想の原点が「世のため、人のため」であるのは言うまでもない。

「私は『川上から川下まで』と言っていますが、建物を建てるだけでなく、賃貸住宅なら空き室を埋める努力をします。倉庫なら施設の運営面も支援します。住宅メーカーとしての顧客リレーション力の強みを生かしながら、世の中に役立つビジネスを展開します。事業は儲かるからやるのではない。世の中に役立つことをやるのです。結果として利益は付いてきます」

 石橋信夫が語っている。

「私が常々『大和ハウスの“和”は人の和を意味する。社員は協力し、得意先、顧客に感謝するのが、会社を発展させる要諦だ』と言うのは、“人間尊重”の企業を目指しているからである」(『運命の舞台』)

 そんな企業文化をいかに継承し続けるか。大野に与えられた重要な使命であると言える。

「使命感」が人を動かす
著者:大塚英樹
刊 / 定価:1500
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喜び、苦悩、決断、夢、志、失敗と成功・・・15人のトップから、生き抜く知恵が見えてくる

登場するトップは以下のとおり。志太勤(シダックス取締役最高顧問)、鳥羽博道(ドトールコーヒー名誉会長)、飯田亮 (セコム取締役最高顧問)、塚本能交(ワコールホールディングス社長)、櫻田 厚(モスフードサービス会長兼社長)、茂木友三郎(キッコーマン名誉会長)、堀 威夫(ホリプロ ファウンダー最高顧問)、伊東信一郎(ANAホールディングス社長)、松本南海雄(マツモトキヨシホールディングス会長)、金川千尋(信越化学工業会長)、根岸秋男(明治安田生命社長)、大野直竹(大和ハウス工業社長)、新浪剛史(サントリーホールディングス社長)、正垣泰彦(サイゼリヤ会長)、小林章一(アルビオン社長)。この15人に生き抜く知恵を学ぼう。(肩書は本書出版時のもの) 

大塚英樹(おおつか・ひでき)
1950年、兵庫県に生まれる。ジャーナリスト。テレビディレクター、ニューヨークの雑誌スタッフライターを経て、1983年に独立してフリーランサーとなる。以来、新聞、週刊・月刊各誌で精力的に執筆活動を行い、逃亡中のグエン・カオ・キ元南ベトナム副大統領など、数々のスクープ・インタビューをものにする。現在は、国際経済を中心に、政治・社会問題などの分野で幅広く活躍する。これまで500人以上の経営者にインタビューし、とくにダイエーの創業者・中内功には1983年の出会いからその死まで密着を続けた。著書には『流通王――中内功とは何者だったのか』『柳井正 未来の歩き方』『会社の命運はトップの胆力で決まる』(以上、講談社)『続く会社、続かない会社はNo.2で決まる』(以上、講談社+α新書)などがある。

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