大塚英樹の「成功するトップの絶対条件」=9
根岸秋男(明治安田生命社長)
世のため、人のため

危機をチャンスに変えた好調企業のトップたちは、どこが違うのか? なぜ、このトップたちは、会社を成功させ続けることができるのか? 500人以上の経営トップに密着したジャーナリスト・大塚英樹氏の近著『「使命感」が人を動かす 成功するトップの絶対条件』で明かされた、11人のトップそれぞれの「答え」とは何か? 短期連載でお届けする。第9回は明治安田生命の根岸秋男会長に学ぼう。

「社会に役立ちたい」という「志」と率直さ

 成長を遂げる企業の経営者に共通するのは、「社会に役立ちたい」「社会のためにこういうことをやりたい」という「志」を立てていることだ。

根岸秋男(ねぎし・あきお) 明治安田生命取締役代表執行役社長。1958年、埼玉県生まれ。早稲田大学理工学部卒業後、1981年に明治生命に入社。保険料の算出等を行うアクチュアリー (保険数理士)出身。商品課長時代に、保障と貯蓄機能を分けた画期的な新型商品「ライフアカウントL.A.」の開発を主導。滋賀支社長、企画部長、営業企 画部長、執行役、常務執行役を経て、2013年より現職。写真提供/明治安田生命

 根岸も、一貫して「世のため、人のため」に役立つ人間になりたいという「志」を持ち続けている。志は不変だが、達成手法は与えられた使命や役割によって異なる。

 アクチュアリー、管理職、役員時代……と各時代での使命をしっかり果たし、現在は第四ステージの経営トップとしての役割、「世のため、人のため」という自発性の企業文化を企業に埋め込むことに挑戦する。

恒常的に利益を上げることは大前提だが、利益が上がりさえすれば何でもよいというわけではない。継続的社会貢献を行うには、手段として利益が必要と考える。

 根岸の掲げる「アフターフォローの強化」「新分野のマーケット開拓」「ブランド力の強化」などは、志を果たす不可欠なビジョンなのである。

 根岸が志を抱くようになったのは、中学生の頃から坂戸市(埼玉)発展のため、一所懸命に働く市会議員の父親の姿を目の当たりにしてきたからだ。同社に入社したのは、早稲田大学で専攻した数学で社会に役立ちたい、また13年続けたアクチュアリーの道を放棄し、営業へ転出したのも、企業改革で社会に役立ちたい、と思ったからである。

 重要なのは、志を果たすプロセスである。まず難関のアクチュアリー試験を六年かけて突破したこと。同社の約60人のアクチュアリーは、各人とも試験に合格するのに7~10年を要している。

「論文以外は一発で合格しましたが、論文試験に合格するまで6年かかりました。論文は『生命保険における解約控除のあり方について考察せよ』などというもので、答えがない。いかに論理的に展開して自分なりの答えを導くか、という論理思考を求めている。私は国語が苦手で、思っていることをうまく表現できない。このままでは絶対受からないと思い、先輩にお願いして論文を添削してもらいました」

 87年に合格して以来、アクチュアリーの道を究めようと努力を重ねた。

 そんな根岸が営業へ転身したのは、発言力の弱いアクチュアリーに限界を感じたということもあった。

根岸は、専門家として実績を重ねるに伴い、安定的に収益を稼ごうとしない会社の方向性に疑問を呈するようになる。入社10年目頃には、①収益の改善政策、②契約の継続率の向上、③コスト削減の必要性、④量優先からクオリティ優先の営業への転換、⑤営業職員の評価制度の見直しなどを、所属部署だけでなく、関連部署である営業企画部、業務部などにも提言するようになった。

 ところが、「営業を知らないやつが何を言うのか」と誰も聞こうとしなかった。根岸の問題意識は専門職の範囲を超えたところにあった。営業所長を志願したのは、一つは会社への提言力、発言力を高めるためだった。

 当時、生保会社の成長は販売力で決まるといわれ、営業現場での指導者を直接経験することで会社の成長の本質や構造を理解できると考えたのだ。もう一つは、会社の状況を表している数字の裏に隠されているものを発見したいと思った。

 見逃せないのは、根岸の「率直」さである。根岸は第1、第2ステージの随所で、上司や先輩たちと口角泡を飛ばして議論し、ぶつかっている。しかし、最終的には根岸の主張が受け入れられている。「理」と「情」で人を説得し切る人並み外れたパワーがあるのは事実だが、納得させたのは率直な人柄である。

 サラリーマンは、思った通りのことを話すと怒りや恨みを買う。場合によっては、左遷されるかもしれない。そのため、率直にものを言うのをためらう。しかし、根岸は率直に意見を言い続けた。共鳴者が増えていったのは、意見の拠り所が「会社のため」、ひいては「世のため、人のため」という「志」にあったからである。

「使命感」が人を動かす
著者:大塚英樹
刊 / 定価:1500
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喜び、苦悩、決断、夢、志、失敗と成功・・・15人のトップから、生き抜く知恵が見えてくる

登場するトップは以下のとおり。志太勤(シダックス取締役最高顧問)、鳥羽博道(ドトールコーヒー名誉会長)、飯田亮 (セコム取締役最高顧問)、塚本能交(ワコールホールディングス社長)、櫻田 厚(モスフードサービス会長兼社長)、茂木友三郎(キッコーマン名誉会長)、堀 威夫(ホリプロ ファウンダー最高顧問)、伊東信一郎(ANAホールディングス社長)、松本南海雄(マツモトキヨシホールディングス会長)、金川千尋(信越化学工業会長)、根岸秋男(明治安田生命社長)、大野直竹(大和ハウス工業社長)、新浪剛史(サントリーホールディングス社長)、正垣泰彦(サイゼリヤ会長)、小林章一(アルビオン社長)。この15人に生き抜く知恵を学ぼう。(肩書は本書出版時のもの) 

大塚英樹(おおつか・ひでき)
1950年、兵庫県に生まれる。ジャーナリスト。テレビディレクター、ニューヨークの雑誌スタッフライターを経て、1983年に独立してフリーランサーとなる。以来、新聞、週刊・月刊各誌で精力的に執筆活動を行い、逃亡中のグエン・カオ・キ元南ベトナム副大統領など、数々のスクープ・インタビューをものにする。現在は、国際経済を中心に、政治・社会問題などの分野で幅広く活躍する。これまで500人以上の経営者にインタビューし、とくにダイエーの創業者・中内功には1983年の出会いからその死まで密着を続けた。著書には『流通王――中内功とは何者だったのか』『柳井正 未来の歩き方』『会社の命運はトップの胆力で決まる』(以上、講談社)『続く会社、続かない会社はNo.2で決まる』(以上、講談社+α新書)などがある。

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