大塚英樹の「成功するトップの絶対条件」=7
松本南海雄(マツモトキヨシホールディングス会長)
時代に合わせて企業環境も変える

危機をチャンスに変えた好調企業のトップたちは、どこが違うのか? なぜ、このトップたちは、会社を成功させ続けることができるのか? 500人以上の経営トップに密着したジャーナリスト・大塚英樹氏の近著『「使命感」が人を動かす 成功するトップの絶対条件』で明かされた、11人のトップそれぞれの「答え」とは何か? 短期連載でお届けする。第7回はマツモトキヨシホールディングスの松本南海雄会長に学ぼう。

時代に合わせて企業環境も変える

 成長する企業の経営者は、事業の「かたち」が時代に合わなくなったと確信すると、事業の本質まで立ち戻って、環境の変化を踏まえてかたちを考え直す。つまり、原点回帰する。

松本南海雄(まつもと・なみお) マツモトキヨシホールディングス会長。1943年、千葉県出身。日本大学理工学部薬学科卒業。マツモトキヨシ創業者・松本清の次男。長男が駆け落ちして勘当されたため(後に許される)、急遽、薬学部に進学させられ、家業を継ぐことに。2001年、社長に就任。2007年よりマツモトキヨシホールディングスの社長も兼務。2014年より会長。日本チェーンドラッグストア名誉会長。 photo 菊池修

 松本南海雄は、その典型例だ。高齢化社会、医療費高騰、医療保険制度の制度疲労……社会・環境の変化を新たな発展のチャンスと捉え、事業のかたちを変革させている。

 きっかけとなったのは、2009年6月の改正薬事法の施行だ。

それにより風邪薬、胃腸薬など大衆薬の大半は、薬剤師不在でも、資格を持った「登録販売者」が常駐していれば売れるようになった。その結果、スーパーマーケット、ホームセンター、家電量販店などが一斉に医薬品販売事業に参入、大衆薬品は安売り競争時代に突入した。

 量販店の中には、通常価格の5~6割値引きで売る店も現れた。従来、医薬品を通常価格の3、4割値引きで売り、価格競争力を武器にしてきた同社は“安売り合戦”で窮地に追い込まれた。大衆薬品で利益を出すのが難しくなってきたからだ。

 松本は原点回帰し、価格競争力依存の成長戦略から、専門性を前面に打ち出す戦略へ切り替えた。

「薬剤師でなければ販売できない高付加価値で、高収益の薬品を扱い、カウンセリングしながら販売する『店』にしていくということです。販売の大半をパートやアルバイトが担うスーパーなどの量販店とは違う。僕は前から、地域に密着した薬剤師がお客様の健康相談に乗る『かかりつけドラッグストア』にしていきたいと思っていたんです。ドラッグストアがセルフメディケーション(自己健康管理)の受け皿となり、地域医療の一翼を担うというビジネスモデルです」

 日本チェーンドラッグストア協会の初代協会長を10年間務めてきた松本は、「“かかりつけ薬局”を目指そう。それこそが少子高齢化社会の今、自分たちの使命なのだ」と訴えてきた。求められるのは、顧客の悩みや不安に対応する相談応需、処方箋調剤の薬歴管理、症状を見て医師を紹介する受診勧奨などの専門性である。

 専門性の追求で松本が力を入れているのは、調剤を行う店舗の拡大だ。調剤併設店は2011年度(12年3月期)の156店から、12年度には176店、13年度には211店、さらに15年9月末までには219店に増加させる予定だ。同時に、調剤専門店の設置も加速させる。同社が12年に設立した調剤専門店子会社「マツモトキヨシ・ファーマシーズ」は、現在、12店舗を展開しているが、今後は毎年10店舗ほど出店する。

 子会社のもう一つの役割は、薬剤師の採用と教育、調剤事業の積極展開を担い、グループ全体に、ドラッグストアとは異なる“調剤のイメージ”を浸透させる広告塔になることだ。それだけに、松本が地域の調剤専門店のM&Aをも積極的に行おうとしているのは言うまでもない。

 薬事法改正を契機に、都心型のドラッグストアも、利便性の追求、調剤併設、長時間営業で地域密着を図るなど再強化している。同時に、店長に品揃えの権限を与える個店対応も進めている。

 注目すべきは、登録販売者要員として毎年大量採用する社員を活用した24時間営業店や利便性の高い長時間営業店の多店舗化だ。

「アメリカでは24時間営業のドラッグストアが多い。日本ができなかったのは薬剤師の数が少なかったからだ。これからは登録販売者を活用して増やせる。医薬品の深夜マーケットは確実にある。東京に限らず、大都市の一等地に店を持つことも必要です」

 医薬品は薬剤師が担い、食品は登録販売者、化粧品はビューティアドバイザーが担うといったように、ドラッグストアには専門性を持つプロがいる。そんな専門性を追求し、「かかりつけドラッグストア」の強みを一層発揮させようというのが松本の戦略だ。

 さらに、訪日外国人の増加に伴い、インバウンド需要も取りこむ。2015年3月期までに免税店を100店舗まで拡大し、来期は外国人専用店舗の出店も視野に、検討している。

「使命感」が人を動かす
著者:大塚英樹
刊 / 定価:1500
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喜び、苦悩、決断、夢、志、失敗と成功・・・15人のトップから、生き抜く知恵が見えてくる

登場するトップは以下のとおり。志太勤(シダックス取締役最高顧問)、鳥羽博道(ドトールコーヒー名誉会長)、飯田亮 (セコム取締役最高顧問)、塚本能交(ワコールホールディングス社長)、櫻田 厚(モスフードサービス会長兼社長)、茂木友三郎(キッコーマン名誉会長)、堀 威夫(ホリプロ ファウンダー最高顧問)、伊東信一郎(ANAホールディングス社長)、松本南海雄(マツモトキヨシホールディングス会長)、金川千尋(信越化学工業会長)、根岸秋男(明治安田生命社長)、大野直竹(大和ハウス工業社長)、新浪剛史(サントリーホールディングス社長)、正垣泰彦(サイゼリヤ会長)、小林章一(アルビオン社長)。この15人に生き抜く知恵を学ぼう。(肩書は本書出版時のもの) 

大塚英樹(おおつか・ひでき)
1950年、兵庫県に生まれる。ジャーナリスト。テレビディレクター、ニューヨークの雑誌スタッフライターを経て、1983年に独立してフリーランサーとなる。以来、新聞、週刊・月刊各誌で精力的に執筆活動を行い、逃亡中のグエン・カオ・キ元南ベトナム副大統領など、数々のスクープ・インタビューをものにする。現在は、国際経済を中心に、政治・社会問題などの分野で幅広く活躍する。これまで500人以上の経営者にインタビューし、とくにダイエーの創業者・中内功には1983年の出会いからその死まで密着を続けた。著書には『流通王――中内功とは何者だったのか』『柳井正 未来の歩き方』『会社の命運はトップの胆力で決まる』(以上、講談社)『続く会社、続かない会社はNo.2で決まる』(以上、講談社+α新書)などがある。

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