大塚英樹の「成功するトップの絶対条件」=5
堀 威夫(ホリプロ ファウンダー最高顧問)
なぜか、人が集まる人の共通点

危機をチャンスに変えた好調企業のトップたちは、どこが違うのか? なぜ、このトップたちは、会社を成功させ続けることができるのか? 500人以上の経営トップに密着したジャーナリスト・大塚英樹氏の近著『「使命感」が人を動かす 成功するトップの絶対条件』で明かされた、11人のトップそれぞれの「答え」とは何か? 短期連載でお届けする。第5回はホリプロの堀威夫ファウンダー最高顧問に学ぼう。

大衆のニーズを第一とする〝大衆主義〟

 成長する企業の経営者に共通するのは、自社が取り組むべき事業範囲を、トップが十分理解している範囲に絞り込んでいることである。トップがわからない事業は、決して手掛けない。トップが事業を十分に把握できていなければ、的確な意思決定ができないからである。

堀 威夫(ほり・たけお) ホリプロ ファウンダー最高顧問1932年、神奈川県横浜市出身。明治大学商学部卒業。大学在学中より小坂一也、井原高忠らと学生バンド・ワゴンマスターズに参 加。ギタリストとして活躍。卒業後、1957年、堀威夫とスヰング・ウエスト結成。1960年、東洋企画を設立するが、内紛で追放され、後に堀プロダク ション(現・株式会社ホリプロ)を設立。代表取締役に就任。2008年より現職。 photo 中野和志

 堀も、現場の実態を体感し、把握できている事業だけを手掛けてきた。新しい事業に着手する際にも、事前に現場に頻繁に足を運び、最前線の生情報を肌で感じ取り、意思決定を行うことを不可欠とした。

ホリプロの事業が、芸能タレント、スポーツ選手、文化人等のマネジメント、音楽・映画・TV番組制作、イベント・舞台・ミュージカルの企画制作など、堀が現場感覚を持ち、十分把握している事業ばかりとなっているのは、そのためだ。

 重要なのは、堀がターゲットにしているマーケットは、「大衆」であるということだ。楽しさと面白さを大衆に提供することを不動不変の理念として、愚直に守り抜いてきた。その結果、山口百恵、和田アキ子など大衆が熱狂するスーパースターを次々と誕生させ、「ピーターパン」や「ムサシ」など大衆が喜び、感動するミュージカルや演劇を行ってきた。

顧客である大衆は何に関心を寄せ、何に喜び、怒るのか。大衆を起点にしてものを考える“大衆主義”といわれる所以である。

「大衆というのは偉大な存在。世の中には優れた素質と才能を持った人はたくさんいる。けれども、いかに優れた人でも、大衆が求めていないときに世に出しても、スーパースターにはなれない。大衆が求めているちょうどそのタイミングに才能、素質がピタッと合致したときにのみ、スターが誕生する。ホリプロの数々のスーパースターも、自分たちが彼らの才能を引き出して作り上げてきたと思ってきた。けれども、それはわれわれの思い上がりでした」

 例えば、昭和30年代に三橋美智也、島倉千代子といったスターたちの歌が大ヒットしたのは、高度成長時代の夜明け前で、農村から都会に働きに出た若者の故郷を懐かしむ心を捉えた、まさに大衆のニーズに合致した歌だったからだ。山口百恵、森昌子……いつの時代も、大衆のニーズのあるところにヒット曲は生まれる─。

 堀は、ホリプロを大衆文化の向上に貢献する会社にしたいと思い続けてきた。そのため、時代によって変化する、大衆の求めるものを嗅覚で嗅ぎ分けられる人間の集団にしなければならない。時代の変化を肌で感じ、嗅覚を鍛えなければならない。

 堀は、過去に築いてきた政官財の幅広い人脈との親交を通じて、時代の空気を嗅ぎ分ける努力をしてきた。また旺盛な好奇心も加わり、米ラスベガスの娯楽インフラを視察したり、パラオでスキューバダイビングに興じたりしたのも、時代の変化を肌で感じたいという一念からだった。

 特筆すべきは、気功を始めたことだ。堀が訴えた「いい顔づくり」運動は、“気”に興味を持ったことがきっかけとなる。「気」という言葉は日本語でたくさん使われているが、決して偶然ではない。「気が合う」「気が合わない」と気のつく言葉がたくさんあって、「天気」「空気」「勇気」「元気」……最後に「人気」とくる。

 では、人気はどうすれば高まるか。解は「いい顔を作る」ことにあると言う。「いい顔」とは、心から滲み出るさわやかな顔のことだ。

「『なぜか、あの人のところには人が集まる』という話がある。それはその人が、いい顔をしていて人気があるからです。プロ同士の戦いに勝つには、勝利の女神を呼び込むしかない。女神は、常にいい顔をした人にほほえむ。朝起きて自分の顔を見ろ。昨日の悪い残像があったら消してこい、と言っています」

 堀は毎日、本社受付に飾っている井上ひさし直筆の色紙の前で足を止める。

「むずかしいことをやさしく やさしいことをふかく ふかいことをおもしろく」

 堀の目指すことを見事に言い表している。

「使命感」が人を動かす
著者:大塚英樹
刊 / 定価:1500
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喜び、苦悩、決断、夢、志、失敗と成功・・・15人のトップから、生き抜く知恵が見えてくる

登場するトップは以下のとおり。志太勤(シダックス取締役最高顧問)、鳥羽博道(ドトールコーヒー名誉会長)、飯田亮 (セコム取締役最高顧問)、塚本能交(ワコールホールディングス社長)、櫻田 厚(モスフードサービス会長兼社長)、茂木友三郎(キッコーマン名誉会長)、堀 威夫(ホリプロ ファウンダー最高顧問)、伊東信一郎(ANAホールディングス社長)、松本南海雄(マツモトキヨシホールディングス会長)、金川千尋(信越化学工業会長)、根岸秋男(明治安田生命社長)、大野直竹(大和ハウス工業社長)、新浪剛史(サントリーホールディングス社長)、正垣泰彦(サイゼリヤ会長)、小林章一(アルビオン社長)。この15人に生き抜く知恵を学ぼう。(肩書は本書出版時のもの) 

大塚英樹(おおつか・ひでき)
1950年、兵庫県に生まれる。ジャーナリスト。テレビディレクター、ニューヨークの雑誌スタッフライターを経て、1983年に独立してフリーランサーとなる。以来、新聞、週刊・月刊各誌で精力的に執筆活動を行い、逃亡中のグエン・カオ・キ元南ベトナム副大統領など、数々のスクープ・インタビューをものにする。現在は、国際経済を中心に、政治・社会問題などの分野で幅広く活躍する。これまで500人以上の経営者にインタビューし、とくにダイエーの創業者・中内功には1983年の出会いからその死まで密着を続けた。著書には『流通王――中内功とは何者だったのか』『柳井正 未来の歩き方』『会社の命運はトップの胆力で決まる』(以上、講談社)『続く会社、続かない会社はNo.2で決まる』(以上、講談社+α新書)などがある。

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