大塚英樹の「成功するトップの絶対条件」=3
塚本能交(ワコールホールディングス社長)
全員参加の経営

危機をチャンスに変えた好調企業のトップたちは、どこが違うのか? なぜ、このトップたちは、会社を成功させ続けることができるのか? 500人以上の経営トップに密着したジャーナリスト・大塚英樹氏の近著『「使命感」が人を動かす 成功するトップの絶対条件』で明かされた、11人のトップそれぞれの「答え」とは何か? 短期連載でお届けする。第3回はワコールホールディングスの塚本能交社長に学ぼう。

相互信頼と個人商店主的社員の育成

 塚本が今、最も腐心しているのは、「全員参加の経営」を実現することである。社員一人ひとりが“個人商店主”のように、自分の頭で考え、判断し、自分の責任で行動する、つまりPDCAを回せる会社にすることだ。

塚本能交(つかもと・よしかた) ワコールホールディングス社長。1948年生まれ。京都市出身。ワコール創業 者、塚本幸一の長男として生まれる。1972年、芦屋大学卒業後、ワ コールに入社。同年、伊藤忠商事貿易本部繊物貿易部に出向。1975年にワコールに戻り、大阪店に勤務。1981年、常務取締役に就任。1987年より代 表取締役社長。現在はワコールホールディングス代表取締役社長兼ワコール代表取締役会長photo 鬼怒川毅(『フライデー』掲載)

 そのためには、全社員が「相互信頼」し合える企業風土と、個人商店主的社員の育成が不可欠となる。

 その点、ワコールには、すでに創業者の塚本幸一が創った「相互信頼」の理念が企業文化に埋め込まれている。

 発端は、1962年にまで遡る。当時、ワコールは法外な要求を突き付ける労働組合に苦戦していた。そんなとき、幸一は「出光には労働組合も就業規則も定年制もない。でも、みんな信頼し合って嬉々として一所懸命働いている」という出光佐三(当時・出光興産社長)の講演をきっかけに、労使問題を解決するには「社員を信頼するしかない」という結論に辿り着く。

 以来、社員との「相互信頼」を経営理念の柱とした幸一は、「労組の要求はノーチェックで承認」「タイムカードはなく、遅刻早退も自由」といった思い切った労務管理を相次いで実現した。社員同士が尊重し合う会社づくりを最大の経営目標に据えることになる─。塚本が今なお毎年、全国を回り、社員との対話を精力的に続けている理由である。

 もう一つは、個人商店主的社員の育成だ。塚本が語った。 

「欲しいのは、仕事の本質を理解し、常に成果をあげることを目指して行動する“付加価値型人間”。例えば、営業の人間なら、得意先に行く以上は必ず実を持って帰ってくる。商品企画の人間なら、会う女性はすべてお客様と捉え、商品についての感想や要望を聞く」

 そういう社員を育てるには、どうすればいいか。塚本が口を酸っぱくして言うのは、「常に相手の立場でモノを考えろ」だ。お客様は無論、社内、取引先、販売店の人に対しても、まず相手の立場に立ってモノを考える。すると、相手から得られるアイデアや情報量が変わってくる。自分自身を客観視でき、周囲に対してより的確な気配りができるようになる。

「自分の役割はもとより、自分という人間をもよくわかっていない管理職ほど始末に負えないものはない。よかれと思ってやっていることが、結果的に部下に迷惑をかけてしまっているケースが多い。人は己を知る者のために働くことを知るべきです」

 相手の立場に立ってモノを見、考え、問題意識を共有しようとする姿勢こそが、「全員経営参加」の前提条件となる─塚本の持論だ。

《ビジネスは、一人ではできない。多くの人に支えられて目的は達成される》

 塚本が、教育係であった川口郁夫(故人、元ワコール専務)から教わった言葉だ。川口は幸一と商業学校時代の同級生で、創業以来、幸一を支えてきた№2である。

 その指導の最初の成果は、伊藤忠商事出向時代に表れた。配属先の繊維貿易部では、同期は東大、京大など有名大卒ばかりだったが、塚本は同期には負けたくないと、彼らがやらないことをやった。

「仕事は海外からの注文をメーカーに発注したらそれで済む単純作業で、同期は電話だけで済ませていた。私は一刻でも早く納入することがサービス業務の本質と考え、自ら工場回りをやりました。出来上がるのを待っているより、工場へ足を運び、状況を確認、催促したのです。納期の短縮でお客様が喜ばれたのは言うまでもありません」

 塚本が危惧するのは、因習主義・形式主義などが横行する“企業不全病”。特にセクショナリズムが蔓延し、部門間のつながりが弱くなっていることに危機感を抱く。そこで塚本は、社員全員を一つにまとめて経営に参加させるべく「女性共感企業」宣言(01年)を復活、すべてのビジネスプロセスで女性に共感し、共鳴される企業への追求を訴える。

「使命感」が人を動かす
著者:大塚英樹
刊 / 定価:1500
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喜び、苦悩、決断、夢、志、失敗と成功・・・15人のトップから、生き抜く知恵が見えてくる

登場するトップは以下のとおり。志太勤(シダックス取締役最高顧問)、鳥羽博道(ドトールコーヒー名誉会長)、飯田亮 (セコム取締役最高顧問)、塚本能交(ワコールホールディングス社長)、櫻田 厚(モスフードサービス会長兼社長)、茂木友三郎(キッコーマン名誉会長)、堀 威夫(ホリプロ ファウンダー最高顧問)、伊東信一郎(ANAホールディングス社長)、松本南海雄(マツモトキヨシホールディングス会長)、金川千尋(信越化学工業会長)、根岸秋男(明治安田生命社長)、大野直竹(大和ハウス工業社長)、新浪剛史(サントリーホールディングス社長)、正垣泰彦(サイゼリヤ会長)、小林章一(アルビオン社長)。この15人に生き抜く知恵を学ぼう。(肩書は本書出版時のもの) 

大塚英樹(おおつか・ひでき)
1950年、兵庫県に生まれる。ジャーナリスト。テレビディレクター、ニューヨークの雑誌スタッフライターを経て、1983年に独立してフリーランサーとなる。以来、新聞、週刊・月刊各誌で精力的に執筆活動を行い、逃亡中のグエン・カオ・キ元南ベトナム副大統領など、数々のスクープ・インタビューをものにする。現在は、国際経済を中心に、政治・社会問題などの分野で幅広く活躍する。これまで500人以上の経営者にインタビューし、とくにダイエーの創業者・中内功には1983年の出会いからその死まで密着を続けた。著書には『流通王――中内功とは何者だったのか』『柳井正 未来の歩き方』『会社の命運はトップの胆力で決まる』(以上、講談社)『続く会社、続かない会社はNo.2で決まる』(以上、講談社+α新書)などがある。

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