大塚英樹の「成功するトップの絶対条件」=2
飯田 亮 (セコム取締役最高顧問)
規制の壁との戦い

危機をチャンスに変えた好調企業のトップたちは、どこが違うのか? なぜ、このトップたちは、会社を成功させ続けることができるのか? 500人以上の経営トップに密着したジャーナリスト・大塚英樹氏の近著『「使命感」が人を動かす 成功するトップの絶対条件』で明かされた、11人のトップそれぞれの「答え」とは何か? 短期連載でお届けする。第2回はセコムの飯田 亮 取締役最高顧問に学ぼう。

社会にとって正しいことは必ず受け入れられる

飯田 亮(いいだ・まこと)  セコム取締役最高顧問。1933年、東京都生まれ。学習院大学政経学部卒業後、父親が経営する酒類問屋・岡永に入社。1962年、29歳で独立し、日本 初の警備保障会社、日本 警備保障株式会社を設立、代表取締役社長に就任。1966年、日本初のオンラインによる安全システム「SPアラーム」を開発。1981年、日本で初めての 家庭用安全システムを発売。1997年より取締役最高顧問。  photo 中野和志

 日本社会になかった事業を創業し、持続的成長を遂げる企業に共通するのは、経営者が「志」を立て、やり遂げる強い意思を持ち、考えて考え抜いていることだ。他社の成功例がないためマネができない。まず自ら行動を起こし、走りながら考える。試行錯誤を繰り返しながら、前へ進むしかない。

 見逃せないのは、新しい事業は必ず社会の反発を受け、規制と衝突する宿命にあることだ。日本で最初にスーパーマーケットを始めた中内㓛や宅配便事業を創業した小倉昌男などは、メーカーや商店街の反発を受けたり、運送業界や社内の反対を浴びたりしながら、根気よく社会を説得、事業を成立させるシステムを考え抜いて産業として結実させた。

 日本になかったセキュリティ事業を興した飯田亮も同様、社会を説得することと、規制の壁を取り払うことに腐心してきた。

 創業当時、飯田は共同創業経営者の戸田寿一と2人で、飛び込みセールスを行った。しかし、「宿直は社員で十分」と考えられていたため、警備の請負には誰も耳を貸さない。顧客を説得するために飯田が使った論理は、「宿直を社員にやらせていると、年々増員要求が強まり、コスト高になる。われわれに任せたほうが合理的で効果的だ」というものだった。

 契約時に3カ月分の前金を受け取る前金制は、「当社は、自らの過失で損害が発生した場合、一定額まで保証する義務を負っている。だから前金がなければ保証できない」というロジックを使った。顧客におもねらないという飯田の信念が逆に、顧客の立場に立って考え抜かれた結果だとして、受け入れられたのだ。

 さらに、飯田が戦ったのは、「規制の壁」だった。どうやってそれを乗り越えてきたか。

最初に問題にされたのは、警務士の夜間の巡回業務だった。

 東京都労働局から、職業安定法に違反していると指摘を受けた。業務上、日をまたぐ場合は、許可を得なければならないが、許可を得ていないと言う。飯田は、警備業務の請負であり、人を派遣しているわけではない。社員への指示命令権は契約先ではなく、セコムにあると繰り返し説明した。結局、その後、多くの警備会社が誕生したため、1972年、「警備業法」ができ、請負であることが認められた。既成事実を積み上げていった結果、法律が後追いでできたのである。

 2番目は、SPアラームが、「専用回線の他人使用は認められていない」という理由で、日本電信電話公社から使用を拒まれたことだ。当時、電電公社が民間に貸し出す専用回線は、同一企業の本・支社間での使用に限って許されていた。SPアラームはセコムと不特定多数の契約先との間を通信回線でつなぐため、違法行為だと言われた。そこで飯田は、契約先に事務所を借り、事務所内に制御などの機器を設置した。セコムの社内業務という体裁を取ったわけだ。規制を逆手に取ったのである。

 3番目は、在宅医療サービスに対して、厚生省が問題にしたことだ。セコムは、点滴治療用の輸液剤を調合する調剤薬局を開設、併せて看護師が患者の自宅を訪問し、主治医の処方箋に基づいて医療措置を行う在宅医療サービスを始めた。

 ところが、法律で患者に注射を打つ行為は、医師の管轄下以外ではしてはならないことになっていると言うのだ。飯田は、医師の指示のもとで看護師が注射するのなら、家の中でも問題はないのではないかと反論し、決行した。厚生省は何も言わなくなった。規制突破である。

 さらに、「トマホークマッハ」という据え置き型の強力な消火器を作ったときも、消防署が問題にしてきた。持ち運びできない消火器は認可できないという。飯田は、「お客様が求めている威力ある消火器を作って何が悪いのか」と消防署を説得した。
「世のため、人のため」の企業文化を育んできた飯田は、社会にとって正しいことは必ず受け入れられると確信する。

「使命感」が人を動かす
著者:大塚英樹
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喜び、苦悩、決断、夢、志、失敗と成功・・・15人のトップから、生き抜く知恵が見えてくる

登場するトップは以下のとおり。志太勤(シダックス取締役最高顧問)、鳥羽博道(ドトールコーヒー名誉会長)、飯田亮 (セコム取締役最高顧問)、塚本能交(ワコールホールディングス社長)、櫻田 厚(モスフードサービス会長兼社長)、茂木友三郎(キッコーマン名誉会長)、堀 威夫(ホリプロ ファウンダー最高顧問)、伊東信一郎(ANAホールディングス社長)、松本南海雄(マツモトキヨシホールディングス会長)、金川千尋(信越化学工業会長)、根岸秋男(明治安田生命社長)、大野直竹(大和ハウス工業社長)、新浪剛史(サントリーホールディングス社長)、正垣泰彦(サイゼリヤ会長)、小林章一(アルビオン社長)。この15人のトップに生き抜く知恵を学ぼう。(肩書は本書出版時のもの) 

大塚英樹(おおつか・ひでき)
1950年、兵庫県に生まれる。ジャーナリスト。テレビディレクター、ニューヨークの雑誌スタッフライターを経て、1983年に独立してフリーランサーとなる。以来、新聞、週刊・月刊各誌で精力的に執筆活動を行い、逃亡中のグエン・カオ・キ元南ベトナム副大統領など、数々のスクープ・インタビューをものにする。現在は、国際経済を中心に、政治・社会問題などの分野で幅広く活躍する。これまで500人以上の経営者にインタビューし、とくにダイエーの創業者・中内功には1983年の出会いからその死まで密着を続けた。著書には『流通王――中内功とは何者だったのか』『柳井正 未来の歩き方』『会社の命運はトップの胆力で決まる』(以上、講談社)『続く会社、続かない会社はNo.2で決まる』(以上、講談社+α新書)などがある。

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