米倉誠一郎の「2枚目の名刺」を持とう
第2回 月並みだが大切なのは「2枚目の名刺」に込める志

一橋大学イノベーション研究センター教授で六本木アカデミーヒルズの「日本元気塾」塾長でもある米倉誠一郎さん。米倉教授が提唱する新しい働き方を通称「2枚目の名刺」と名付けました。その「2枚目の名刺」を使いこなす働き方の大事なエッセンスを10ヵ条にして、10回にわたり米倉教授の短期集中講座をお届けします。第1回目『「2枚目の名刺」をまず作ってしまえ』は、こちらです。

元気塾塾長の米倉誠一郎氏                         (写真・御厨慎一郎)

2    月並みだが大事なのは「志」

 2枚目の名刺の持ち方は、副業、週末起業、形態はなんでもいいと思う。しかし、どうせやるなら、継続できたほうがいいし、一人でも多くの人を幸せにしたほうがいい。その意味では、自分の好きな分野で挑戦したほうが頑張れると思う。ここで、日本元気塾の塾生だった白星製靴代表・星野俊二(ほしの・しゅんじ)君の話をしよう。

 星野君は今、「いつかサルヴァトーレ・フェラガモを超える!」という夢を持ち、ミャンマーを拠点に「靴づくり」をしている。フェラガモが注文靴の元祖として業界のトップに立って以来、注文靴業界ではイノベーションが起きていない。彼は新しい技法によってフェラガモを超えんとしているのだ。

 彼は子どもの頃から手を動かして何かをつくるのが好きだったのだが、両親は安定性を見込んで公認会計士になることを強く勧めたそうだ。「なるほど」と親の意見に従って公認会計士試験に合格し、彼は大手監査法人に勤務していた。

傍(はた)から見れば順風満帆のエリート社員生活を送っていた星野君だが、彼も偶然、日本元気塾のチラシを見つけて入塾してきたのだった。もやもやとした時間のなかですごしている自分を、何とかして覚醒させたかったのだろう。

 星野君は日本元気塾イズム「自分の人生は自分でつくるべきだ」に完全に感染する。卒塾課題を探すうちに、自分が本当にやりたいことが何だったかを考え始めたのだった。

 ある日、彼が電車に乗っているときにハイヒールを履いた多くの女性の足がとても痛そうであることに気づく。その疑問を実際に数人の女性たちにぶつけてみると、「痛いのは当然でしょ。痛くないハイヒールなんてあり得ない」という答えが返ってきた。ただし、5万円以上する高級靴を履くとそれほど足は痛くないのだという。

 しかし、それ以下だとハイヒールというものは痛いのが当然なのだと。「それはおかしい」。ここから、彼の2枚目の名刺の活動が始まっていく。

 星野君は監査法人で公認会計士の仕事を続けながら、浅草橋の靴屋の門を叩き、靴づくりの修業を開始する。そして1年半後、「米倉先生、僕、監査法人を辞めて、ミャンマーに行くことにしました」と言いだした。彼なりにいろいろな調査研究をした結果、自分が目指す性能、デザインの靴を安いコストでつくるためには、ミャンマーしかないというのが彼の結論だった。

  公認会計士を続けていれば、サラリーもたくさんもらって安定的。ただし、好きなことでないと自分のモチベーションは続かない。親から勧められてスタートした公認会計士人生からスピンアウトして、星野君は今ミャンマー現地で職人を一人雇い、頑張ってビジネス基盤を創っている。そして、自分がこの業界を新しく進歩させるという素晴らしい志を持っている。手を動かして何かをつくることが好きだから、その仕事が肌に合って実に楽しいという。