第8回ゲスト:中谷巌さん (後編)
「民主主義が格差を是正する機能を十分に発揮しないことは、歴史を振り返れば明らかです」

〔写真〕峯竜也 〔構成〕小野塚久男 〔撮影協力〕BAR STING

【前編】はこちらをご覧ください。

分厚い『21世紀の資本』は「r>g」に要約できる

島地 前半は「資本主義の黄金時代」まででしたが、ピケティの『21世紀の資本』によると、それは2度の世界大戦をはさんだほんの一時期の出来事であり、その後は再び格差がどんどん広がり続けていると指摘されています。

中谷 帯に「r>g」とあるでしょう。この本の内容をひと言であらわした図式で、「r」は資本に対するリターンを示す利潤率。「g」は経済成長率を示しています。つまり「g」=すべての人の所得の伸び率よりも、r=資本に対するリターンの方が大きいというわけです。200年以上のデータを積み重ねた結果、資本主義体制下では、「r>g」、すなわち「資本家など富める者はますます富み、労働者との格差は広がり続ける」という事実をピケティは強調したかったのでしょう。

島地 超簡単な図式ですが、これだけで分厚い本の内容を見事に示しているということですか。これには編集者的なセンスも感じてしまいますね。では実際、貧富の格差はどれくらいまで進んでいるのでしょうか。貴族社会では1パーセントの人間が90パーセントの富を独占していたわけですが。

中谷 アメリカの場合、1パーセントの上位所得者が稼ぐ割合が全体の約20パーセントだといわれています。日本ではまだ8パーセントぐらいですから、アメリカよりは平等な社会だといえます。アメリカでは富裕層上位10パーセントの人間が、全体の富の60パーセントを手にしているような状態になっています。19世紀のヨーロッパ貴族社会よりは偏在の割合は低いのですが、問題は時代を経るにつれて富の偏在がどんどん進んでいるという事実です。

 このままでは今世紀中にはほとんど19世紀の貴族社会の状態にまで近づいてしまうかもしれない。本当にそれでいいのですか? というのが「21世紀の資本論」ともいうべきピケティの問いかけです。

島地 先生は最初に、資本主義が格差を拡大するのは構造的に仕方ない部分があり、それを是正するための仕組みとして民主主義があるとおっしゃいました。ピケティも民主主義を否定せず、民主主義的な解決法があるとしていますよね。