賢者の知恵
2015年04月30日(木) 佐々木信夫(中央大学教授、法学博士)

「大阪都構想:住民投票と「特別区」の創設は何を生むか」  (上)

佐々木信夫(中央大学教授)

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はじめに

 大阪都構想の是非をめぐる住民投票が27日、告示された。5月17日に行われる投票の結果が大阪の将来を大きく左右する。普段、一般の人たちは大都市制度のあり方など考えてみたこともないし、どんな制度か自体、あまり関心を持ったこともないのではないか。

 しかし、制度(統治機構)が政策や公共サービスを生む前提となるだけに、とくに大阪市民の方々にとっては理解を深めて投票に臨むことが期待される。賛成、反対、いろいろな意見が飛び交っているが、本当のところはどうなのか、東京都政で16年間、都区制度を目の前に見て、都庁の中で大都市政策の実務を担当してきた筆者の実際に見聞したことを基に、大阪都構想及び都区制度の本質について小論を述べてみたい。

第7代大阪市長の関一氏による御堂筋の拡幅が大阪の隆盛の出発点   photo Getty Images

1.背景―大阪都構想は都市経営だ

 大阪は明治時代、日本最大の都市「商都」として栄えていた。幕藩体制から近代国家に移るなか、当時から「官都」の色彩の強かった東京とは一線を画し、民の力で時代の先端を走っていた。都市づくりも画期的なものだった。

 1923年、東京商科大(一橋大)教授から転じ第7代大阪市長に就いた関一氏は、市営公園や公営住宅の整備、御堂筋の拡幅、地下鉄の建設(現大阪市営地下鉄御堂筋線)、大阪城天守閣の再建、大阪商科大学(大阪市立大学)の開設など様々な都市政策を展開し、隆盛期の大阪をつくりあげた。

 関氏は、大阪の都市づくりについて御堂筋を開発し、それを基盤に市電を敷設し、期せずして経済価値の高まった沿道筋(事業主、住民)から開発利益の納付を求め、それを原資にさらに道路をつくり市電を伸ばしていくという手法をとった。

 税金に頼らず、受益者の負担によって都市インフラを整備していくやり方は、現在、上下水道や地下鉄など独立採算を求める「公営企業」という手法で脈々と生きている。こうした都市をマネージメントしていく手法を「都市経営」と呼ぶなら、関一氏はその元祖といえる。大阪はこうして日本をけん引する素晴らしい都市として発展していく。

 その大阪が非常に厳しい状況にある。時代が大きく変わり、日本は東京一極集中があまりにも進んでしまった。裏を返せば、大阪の凋落、関西の地盤沈下が東京へのヒト、モノ、カネ、情報、企業移転の流れを加速させてしまった。作家の堺屋太一氏の見立てでは、大阪の繁栄は1970年の大阪万博までだったという。半年間で世界から6500万人もの人を集めた万博は、1964年の東京オリンピックを遥かに凌ぐ影響力があった。しかし、万博以降、大阪は次第に右肩下がり時代へ向かう。

  現在、大阪は日本第2の都市とはいえ、本社をはじめ中枢管理機能が多く集まる東京と違い、経済活動の大半は地場の中小企業から成り立ち、低迷している。生活面でもデータが示すように、所得、貧困、失業、犯罪、治安、離婚、学力など数々の分野でワーストワンに近い数値が並ぶ。

 それを必死で立て直そうというのが、この7年余続いてきた橋下徹氏らを中心とする「大阪改革」である。低迷の要因を司令塔が混乱し大阪府と巨大な大阪市がせめぎ合う2元行政(構造)にあると見立て、統治の仕組みを変える「大阪都構想」を実現することでこの危機を突破し、新しい大阪時代を拓こうとしている。100年ぶりにやってきた現代版「都市経営」の新展開とみることができる。

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