「琴線」と「逆鱗」の場所を間違える安倍政権。歴史的背景に見る沖縄

佐藤優直伝「インテリジェンスの教室」Vol.059 文化放送「くにまるジャパン」発言録より
佐藤優さんが毎月第1・第3・第5金曜日に出演している文化放送「くにまるジャパン」での発言を紹介します。今回は4月17日放送分をお届けします。なお、ラジオでの発言を文字にするにあたり、読みやすいように修正を加えている部分もあります。

伊藤: 今月(4月)14日の産経新聞の記事です。「中国を訪問の沖縄翁長知事 李首相との会談で福建省との関係強化を要請」。

中国を訪れている沖縄県の翁長雄志(おなが・たけし)知事は14日、北京の人民大会堂で李克強(り・こくきょう)首相に対して、中国福建省と沖縄県との間の定期航空便開設など経済的な関係強化を図るよう要請しました。李首相は「両国の地方政府同士の交流を支持する。沖縄を含むすべての地方との交流を開放していきたい」と述べました。翁長知事は、河野洋平元衆院議長らに同席して李首相と会談。アジアとの交流で栄えた琉球王国の歴史に触れ「アジアの発展が著しい中、沖縄が注目されてきていることを、ぜひご認識いただきたい」と語りました。

邦丸: 佐藤優さんが以前から警告を発していたのが、まあ尖閣の問題がもちろんあるんですけれど、この沖縄と日本国政府との間がぎくしゃくすると、中国が手を突っ込んでくるぞというニュアンスのことをおっしゃっていました。

佐藤: 中国が手を突っ込んでくるというよりも、歴史の過去の記憶が蘇ってくるんですね。福建省というところがキーポイントになってきます。実は、琉球王国時代に福建省に琉球館という大使館があったんです。

邦丸: 琉球王国時代の大使館ですか。

佐藤: はい。福州琉球館というんですが、そこを通じて中国との関係を持っていたんです。廃藩置県によって1879年に琉球王国が廃止されて、沖縄県ができたときに、日本への併合が嫌だという琉球王朝の幹部たちが脱清――清に脱出していったんです。

邦丸: 当時の清国ですね。

佐藤: はい。それで福州に渡って、そこで死んでいる人たちがたくさんいる。沖縄にある亀甲墓とよく似た墓があるんですよ。そういう歴史の過去というのが戻ってきている。ですから、直行便ができるということになると、福州琉球館の歴史が沖縄で注目されるようになってきます。

ここはすごく難しいところなんですね。要するに、沖縄における中国脅威論というのは、本土と比べて低いんじゃないかということがよく言われるんですけれど、外交安全保障の専門家のなかにおいては、中国の危険性に関しては沖縄も本土と同じレベルの認識です。ところが、住民のレベルにおいては、中国に対する警戒心というのはあまりないんですよ。というのはどういうことかというと、沖縄の領域において、アメリカ人は沖縄の人をこの前の戦争でたくさん殺しているんですよ。日本人住民虐殺もあったし、それ以前に1609年の薩摩の琉球入りでだいぶ人が死んでいるという記憶があるんですよ。ところが中国は、歴史的に沖縄の領域内で1人も沖縄の人を殺していない。この記憶というのがあるわけですよ。そうすると、なかなか難しい感じになってくるんです。

安倍さんも菅さんも悪い人たちではないんですね。ただ、デリカシーに欠けるというか、沖縄の気持ちがよくわからないんですよ。日本というのは大民族でしょ。1%ぐらいしかいない少数派の気持ちって、大民族にはなかなかわからないんです。ロシア人がチェチェン人の気持ちがなかなかわからないのと同じように。私ももし、母親のルーツが沖縄になければ、沖縄は何を言っているの、日本全体のために少し協力してちょうだいよと思ったでしょう。

「普天間の海兵隊といってももともとは山梨や岐阜にいたんだもの。基地反対闘争が激しくなったから、憲法がまだ施行されていない沖縄に来たんだものね」と考えますし、「岸本名護市長が合意したのは、辺野古沖の埋め立てではなかった。あれはキャンプシュワブの滑走路を延ばすのであって、15年後には返還するということだった。しかも稲嶺知事のときに出てきたのは、沖縄に取り外しが可能な基地をつくって、それも15年後には撤去するということだった。埋め立てて航空母艦が着く恒久基地をつくるというのは、話が違う」という感覚は、沖縄の関係者でなければなかなかわからないんですよね。そうでない人は自分のことのようには考えないですから。

邦丸: ふむ。

佐藤: それから、原発と沖縄の基地というのは同じだから一緒に反対運動をやっていこうという形で、反原発運動をやっている人が言ってきても、ちょっと違和感がある。原発は、いろいろな問題があるとはいえ、原発のある道県といちばん小さい単位であるところの行政の選挙で洗礼を受けた、民意を受けた形で設置されている。それに対して沖縄の基地というのは、伊江島にしても嘉手納にしても、「銃剣とブルドーザー」で戦争の後、占拠されている。

ハーグ陸戦法規という第一次世界大戦のころの国際法があるんですけれど、戦争が終わった後、占領した場所は返さなくてはならないということになっているんですよ。沖縄の基地は明らかにハーグ陸戦法規にも違反しているわけです。

こういう状況があるということは、構造的に不利な状況に置かれているし、冷静に第三者的に見ると、非常に「植民地」に近い状況なんですよ。だから5日に翁長さんが菅さんと会ったときに、「キャラウェイ高等弁務官みたいだ」と言ったわけですね。高等弁務官というのは、植民地の総督のことです。キャラウェイ高等弁務官は「沖縄の自治は神話だ」と言った人です。

菅さんは那覇のハーバービューホテルで会談をやろうと言ったわけですが、このハーバービューホテルというところはまさに、キャラウェイ高等弁務官が「沖縄の自治は神話だ」という演説をした場所なんです。

邦丸: はぁ~~。

佐藤: なんでよりによって、そういう場所に翁長さんを呼び付けるのか。神経を逆なですることばかりなんですよ。要するに、官邸や外務省の人たちは知らないですよ。

邦丸: 知らないんですか。

佐藤: 知らないからやっているんです。知れば、そんな神経を逆なでするようなことはできないし、繰り返しますが、菅さんも悪い人ではない、安倍さんも悪い人ではない。沖縄のために一生懸命やりたいと思っているんだけれども、どうも「琴線」と「逆鱗」の場所を間違えているんです。・・・(以下略)

佐藤優直伝「インテリジェンスの教室」Vol.059(2015年4月22日配信)より