佐藤優のインテリジェンス・レポート「ロシアの対日姿勢の硬化」

佐藤優直伝「インテリジェンスの教室」Vol.059 インテリジェンス・レポートより
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【事実関係】
3月15日、ロシア全土で放映されたテレビ番組「クリミア、祖国への道」のインタビューで、ロシアのプーチン大統領が「去年のクリミア危機で核臨戦態勢を準備していた」と述べたことについて、松井一実広島市長がアファナシエフ駐日大使に抗議文を送った。これに対し、同大使から広島市にファックスで反論文が寄せられた。

【コメント】
1.―(1)
ロシアが対日姿勢を硬化させ始めている。

3月15日、ロシア全土で放映されたテレビ番組「クリミア、祖国への道」の中のインタビューで、ロシアのプーチン大統領が、去年のクリミア危機で核臨戦態勢を準備していたと述べたことに対して、松井一実広島市長がアファナシエフ駐日大使に対して抗議文を送った。

2.―(1)
今回の松井広島市長の抗議文に対して、ロシアのアファナシエフ大使から広島市に、ファックスで激烈な反論文が寄せられた。

<■アファナシエフ・駐日ロシア大使の返書(広島市が発表した仮訳)

2015年4月9日
広島市長 松井一実様

2015年4月3日の貴台の書簡を入念に拝読いたしましたが、ウラジーミル・プーチン大統領の実際の発言を誤って解釈した、根拠のない貴台の「抗議」は容認できない旨、お伝えしなければなりません。貴台及び貴市職員には、ドキュメンタリー番組「クリミア─祖国への道」の台本を注意深くお読みいただきたいと思います。

また、ロシア連邦はNPTの寄託国の一つであり、それゆえNPT体制を強力に支持していることをお知りおきください。我が国の様々な取り組みは、核兵器をはじめとする軍備の削減だけではなく、核兵器のない世界を目的としていますが、そのためには、当然のことながら、必要となる国際的環境の整備が求められます。米国の一方的なミサイル防衛システムの開発や宇宙武装の脅威など、戦略的安定に悪影響を与える極めて破壊的な諸要素に対し、国際社会の注意を喚起しようとロシアが声を上げていることを、残念ながら貴台は見落としていらっしゃるようです。

また、日本がどこの国の「核の傘」に依存しているかはよく知られています。このことは、貴台が的確に表現されているように、「こんな思いを他の誰にもさせてはならない」という言葉で表された被爆者の平和への思いとまったく矛盾しています。当然、第2次世界大戦により70年前に3千万人が犠牲になったロシアや旧ソビエト連邦の国民は、どれほど平和が尊く貴重であるか熟知しています。

市長様、貴台の書簡には、70年前、どの国が実際に広島と長崎に核爆弾を投下したのかについては言及がありません。しかし、それは世界中で知られています。私が思いますに、この国こそ貴台の「抗議」の対象ではないでしょうか。

松井市長、残念ながら、貴台の批判は完全に見当違いです。

駐日ロシア大使 エヴゲーニー・アファナシエフ>(4月10日 朝日新聞デジタル)

2.―(2)
アファナシエフ大使は、経験を積んだ外交官だ。駐日大使に赴任してからも、日本の各界と人脈を構築すべく積極的なロビー活動を展開している。「貴台の批判は完全に見当違いです」という激しい抗議文を送るような対応は、アファナシエフ大使のスタイルではない。

4.―(1)
広島市長、長崎市に対してアファナシエフ駐日ロシア大使が抗議文を送ったのは、その文面も含め、クレムリンの指示に基づくものと見られる。

抗議文は、「米国が広島と長崎に原爆を投下した」という歴史的事実を強調した上で、「日本が米国の核の傘に入っている」という現実を示す。その上で、「日本が米国のMD(ミサイル防衛)システムに参加するならば、日本をロシアに対する脅威と認定し、核ミサイルの攻撃対象にする」というものだ。・・・(以下略)

佐藤優直伝「インテリジェンスの教室」vol.059(2015年4月22日配信)より