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名医たちが涙する「忘れられない患者たち」(上)「彼らに僕は大事なことを教わりました」
人気シリーズ「日本が誇るトップドクターが明かす」
〔PHOTO〕gettyimages

どんな医者にも、心に残る患者がいる。治療がうまくいった患者ではない。病と闘い、自らの命と引き換えに大切なことを教えてくれた名もなき患者たち—彼らの生き様が、日本を担う名医を育てた。

7歳の少女のひと言

病室の片隅で一人、肩を震わせながらうずくまっている女の子—それが、東京慈恵会医科大学腎臓・高血圧内科教授の横尾隆医師にとっての「先生」だった。

「20年ほど前、僕が研修医で小児科にいたときのことです。小児科病棟には毎日おやつの時間があるのですが、その子は、いつも15時になると姿が見えなくなる。あるとき、人に見えないところで声も出さずに泣いているその子を見つけたんです。

先天性の腎不全を抱え、物心ついたときから透析をしていた小学2年生の女の子でした。腎臓の機能が低下すると尿が作れず水分を体外に排出できなくなるため、腎不全の患者は当時、どんなに喉が渇いても満足に水分を摂ることさえ許されなかった。おまけに、おやつに含まれる成分も、腎不全患者が摂取すれば命取りになりかねないものが多かった。彼女は、自分の状況がよくわかっていたんでしょう。

なんて声をかけたらいいかもわからなかった。何も言わず、ただその子の傍にいることしかできませんでした」

横尾医師は、毎日おやつの時間になると彼女のもとへ行くようになった。でも、できることはただ一つ、彼女の隣に座って肩を抱き、一緒におやつの時間が終わるのを待つことだけ。そんな日々を送るうち、口数が少なかった少女は、次第に横尾医師に本音をぶつけるようになっていく。

「喉が渇いた!ジュース飲みたい!」