読書人の雑誌『本』
「アイスコーヒー」もクール・ジャパン?劇作家・鴻上尚史が外国人から聞いて議論したニッポンの姿

本当のクール・ジャパンってなんだろう?

(文・鴻上尚史)

NHKのBSで放送している『cool japan』という番組で、司会をしています。番組は、この4月で10年目に突入しました。番組が始まった当初は、「クール・ジャパン」という言葉は、まだまだポピュラーではありませんでした。

風向きが変わってきたのは、2010年に経済産業省が『クール・ジャパン室』という部署を作ったあたりです。いい意味でも悪い意味でも、日本人が「クール・ジャパン」という言葉を知るようになりました。僕が司会している番組も、官主導の国策番組のように見る人が出てきて、批判のメールも来るようになりました。

批判のトーンは、「国が文化に口を出すんじゃない」とか「アニメとかマンガに税金を使うな」「クール・ジャパンなんて、世界じゃ全然知られていないんだから、ムダなことをするな」なんてことでしょうか。

いろいろと批判的な言葉と、それから同時に「日本は素晴らしい」「日本製品は世界一」「日本人であることはとても誇らしいこと」「世界に愛される日本」という「日本及び日本人無条件礼賛」の流れも出てきました。

正反対の二つのムーブメントを見ながら、僕は内心、「みんなが思っているクール・ジャパンは、僕が番組で見てきたクール・ジャパンと全然違うんだけどなあ」と思っていました。

「これから先、2020年の東京オリンピックに向けて、ますます、『クール・ジャパン』は盛り上がるんだろうなあ。でも、それは、本当のクール・ジャパンなのかなあ。日本人が期待と誤解で作り上げたクール・ジャパンを外国人は本当に喜ぶんだろうか」と心配するようになりました。

番組を始めた当初、外国人に「日本に来て、これはクール(かっこいい・素敵・優れている)と思ったものは何?」というアンケートを取りました。彼らは、「ママチャリ」「洗浄器付き便座」「アイスコーヒー」と言いました。

まず僕は、アイスコーヒーに驚きました。ヨーロッパやロシア、アフリカ、ブラジルなどの南アメリカから来た外国人達は、「日本に来て、初めてアイスコーヒーというものに出会った。驚いた。私の国ではコーヒーは熱いもので、冷たいコーヒーなんてない。でも、日本でアイスコーヒーを飲んで、とても感動した。これは、とても美味しくてクール」と発言したのです。どうも調べれば調べるほど、アイスコーヒーは日本発の飲物のようなのです。今では、アメリカの大手のコーヒーチェーンが世界中でアイスコーヒーを売っていますが、このチェーン店がない土地から来た人は、日本でアイスコーヒーを飲んで驚くのです。

「ママチャリ」と「洗浄器付き便座」は、大使館員やビジネスマンが母国に帰る時に買う日本のお土産の代表的なものです。子供の座席がついている自転車は世界にありますが、全部、後ろについているのです。前についているのは、日本だけです。「洗浄器付き便座」というのは、耳慣れない言葉ですが、代表的な商品は、TOTOのウォシュレットです。

この3つがクール・ジャパンと言われた時に、僕は、「うむむ。日本人が理解しているクール・ジャパンと、違うんじゃないか?」と思ったのです。