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創刊56周年特別企画 日本の栄枯盛衰をずっと見てきた 東の田園調布、西の芦屋六麓荘「大金持ち」が住む街を歩く(上)

●誰が住み、誰が去ったか
●地主と新興住民の確執
●通り一本の違いが格差を生む
●町内会の特別ルール……

ほんの一握りの人間にしか住めない超高級住宅街。そこに住む人々は何を見て、何を考え、何を望んでいるのだろうか。東西の街を実際に歩いて、彼らの「素顔」と「暗黙のしきたり」に迫った—。

「上には上がいる」

東急田園調布駅の改札を抜けると、左手には'10年に復元された旧田園調布駅舎が姿を現す。

朱色の屋根を持ち、ヨーロッパ民家を思わせるその駅舎をくぐると、小さな広場を囲むロータリーに出る。

そこには真っ白なベンツ、黒塗りのアウディ、銀色のBMWが次々と乗りつけてくる。身なりのよい紳士淑女を降ろしては乗せ、放射状に伸びた5本の道路のいずれかに消えてゆく。

駅前を歩く、大型犬ボルゾイを連れた夫婦に話しかけた。

「家の中で飼っているんですか?」

「そう。犬専用の部屋があるの。気温の変化に弱いから、一年中、24時間エアコンをつけていて、私たちより快適な生活をしているわ」

日本には誰もが認める「大金持ちが住む街」が二つある。東の田園調布、西の芦屋市六麓荘町—そのエリアには独特の景観と文化があり、そこに住む人々も固有の価値観を持って生きている。

そして、人間の「富」の象徴でもある二つの街はまた、日本という国の栄枯盛衰をずっと見てきたとも言える。

本誌は今回、その二つの街をじっくり歩き、住民たちに話を聞いた。そこから浮かび上がるのは、現代日本の富裕層の、一つの縮図である。

旧田園調布駅舎から南西へ進み、なだらかな直線の坂を登る。どの家の生け垣にも樹木がみっしり生い茂っている。敷地面積は広いが、すべて2階建てで高さはなく、圧迫感のない景観に心が落ち着く。

親子3代で田園調布に住み、子供二人もこの地で育てたという、帝国ホテル東京副総支配人の犬丸徹郎氏(59歳)が語る。父・一郎氏は帝国ホテル社長を務めた実業家だ。