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野村克也「野球は頭の使い方で決まる」自分を育ててくれたプロ野球界に、これだけは言っておきたい(下)
スペシャル・インタビュー

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キャッチャーとは何か

私は打者だけでなく、キャッチャーとしても頭を使い続けてきました。

そもそも キャッチャーとは何か。私が考えるに、キャッチャーは「守りにおける監督の分身」であり、「野球というドラマの脚本家」でもある。キャッチャーには、試合 中、実は監督以上の仕事が求められています。いかに有益な情報を事前に仕入れ、それをもとにサインを組み立てられるかが、勝敗を左右するからです。

ですから、14年間捕手をつとめた阿部慎之助が今年から一塁に転向してしまったことが残念でなりません。

捕 手には3つの力が求められる。「観察力」「洞察力」そして「記憶力」です。入団直後の阿部は、打者の動きに対して鈍感で、「見えない」「感じない」捕手だ と歯がゆさを覚えていたが、彼は捕手として4度の日本シリーズを経験して、確実に成長していきました。日本シリーズは、捕手にとって1球たりともおろそか にできない決戦の場で、たった1球、根拠のないサインを出したことで、主導権を失い、敗北につながる危険性を秘めている。その緊迫感の中で阿部は学んだと 思います。

阿部のような捕手を新たに育成することは、簡単ではない。最低2年、普通は3年かかる。捕手は、「見えないものを見る」ことが仕事だからです。彼には打者として選手生命を延ばすよりも、名捕手としてプレーを続けてほしかったと思う。

目の前をボールが通過した時に、打者がどんな反応をするのか、捕手は右目でボールを受け、左目で打者の反応を見なければいけない。打者がどんなボールに狙いを絞っているのか、感じ取る洞察力が不可欠なのです。

私 はヤクルト、阪神、楽天で監督をつとめていた時、どの捕手にも「根拠のないサインは出すな」「今の1球の根拠を教えてくれ」としつこく言い続けました。そ の中から古田敦也、矢野燿大、嶋基宏らが成長した。特に楽天の監督をつとめていた時は、嶋のほかに藤井彰人や中谷仁らがいたが、正捕手を誰にするかを決め きれなかった。そこで、実はマネージャーにお願いして、彼らを含めたキャッチャー陣の中学時代の通信簿を調べてもらったのです。

すると、嶋は5段階評価でなんと「オール5」だった。勉強ができることがわかり、それが、「彼を正捕手に育てよう」と決めるきっかけになったのです。

彼は慎重な性格で、勝負どころで投手に要求するサインが外角低め直球の一辺倒になることがある。こわがらずに思い切って相手打者の内角をえぐる度胸が欠けている点が課題ですが、2年前の日本シリーズを経験して日本一に輝いたことで、名捕手への階段をのぼりはじめました。