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野村克也「野球は頭の使い方で決まる」自分を育ててくれたプロ野球界に、これだけは言っておきたい(上)
スペシャル・インタビュー

解離性大動脈瘤の治療に専念していたノムさんが、久々に戻ってきた。野球に存在する「間」を、選手たちが無為に過ごしている、とボヤキは健在。「野球とは何か」をつきつめて考える大切さを説く。

イチローに仕掛けた心理戦

昨年秋、月に1度受けている定期健診で体に異常が見つかり、以後、療養に専念してきました。体重こそ8kg減りましたが、大事には至らず、おかげさまで、自宅近郊なら連日外出できるまで回復しました。しかし、今年の6月29日で80歳を迎えます。「自分がこれまで歩んできた人生を書き残しておきたい」という気持ちになっているのも事実です。育ててもらった野球界への恩返しの意味をこめて、今、感じていることを素直に話したいと思います。

日本のプロ野球は、一流選手が一流を育ててきました。金田正一、村山実が長嶋茂雄と王貞治を育て、長嶋、王の存在が、平松政次や外木場義郎といった投手を育てた。ただ、ダルビッシュ有や田中将大を見てもわかるように、最近は一流選手がみな、メジャーに挑戦するため、米国に渡ってしまう。したがって、日本国内に一流選手が残らないのです。

20歳の大谷翔平が二刀流で注目されていますが、大谷が活躍し、脚光を浴びてしまうこと自体、プロ野球のレベルが低くなっていることを示しています。本来であれば、打者だけ、投手だけに専念しても、結果を残すのは大変なはず。両方ともすごい、ということは、対戦相手がだらしないのです。意地でもプロの厳しさを教えるべきです。

少なくとも私は、現役時代、甲子園のヒーローや、注目されて騒がれて入ってきた選手には絶対打たせない、という気持ちでプレーした。名をあげようとする若手選手にとっての「壁」として立ちはだかる。若手はそれを乗り越えて、はじめて一流になるのです。

最近は選手をはじめ、野球に携わる関係者が、深く考える習慣をなくしてしまったように思います。たとえば、「野球とは何か」と問われ、何人が明確に答えられるでしょうか。

私が問われたら、こう答えます。「頭のスポーツであり、意外性のスポーツである」と。

1球投げて、休憩。次の1球までにこんなに間合いが長いスポーツはほかにはない。次の球、次のプレーに対して備え、考える時間的余裕があるわけです。そして、お互いに読み合うことで、弱者が強者を倒す余地が生まれます。

頭脳を駆使し、知恵を絞って強者攻略に成功したのが、ヤクルトの監督として迎えた'95年のオリックスとの日本シリーズでした。その年の開幕前に、阪神淡路大震災が発生し、イチローは震災からの復興を目指す神戸のシンボル的存在として、首位打者、打点王、盗塁王、最多安打、最高出塁率の打者5冠に輝いていた。

イチローを抑えることが、勝利への必須条件と考えた私は、スコアラー陣に攻略法の徹底研究を命じましたが、「わかりません。打たれるのは覚悟してください」と頼りない返答でした。