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【第83回】 「購買力平価」からみた現在のドル円レートの水準
〔PHOTO〕gettyimages

1ドル=121円を超える円安の常態化は日米経済にとって好ましくない

4月13日の夜(日本時間)、新年度に入って、1ドル=121円台に向かいつつあったドル円レートが、突然、円高へ転じ、1ドル=119円前半まで戻した。きっかけは、某民放BSのニュース番組で、浜田宏一内閣府参与が、「現在のドル円レートは購買力平価と比較すると円安で推移している。購買力平価でみたドル円レートの『適正』水準は1ドル=105円程度である」と、為替レートに言及したコメントが、英訳されて報道されたことであった。

浜田宏一氏は、安倍政権の経済政策のブレーンの一人であり、「アベノミクス」の立役者の一人である。筆者はこの時間帯には別の番組を観ていたので、浜田参与の発言内容をリアルタイムでチェックしていたわけではないが、安倍政権の経済政策のブレーンが「現在の円安は行き過ぎた水準になりつつある」という旨の発言をしたことは、為替市場関係者にとって、久々にサプライズをもたらしたのだろう。

浜田参与の発言は、日本の為替政策に影響を与える意図をもったものではなく、個人的な見解を述べられたのだと思うが、もう一人の経済政策のブレーンである本田悦朗内閣府参与も1ドル=120円を恒常的に超えていくようなさらなる円安進行に対しては警戒的な発言をしている。

ところで、為替レートの決定メカニズムや、「適正な」ドルレートの水準については、さまざまな考え方があるため、一概にどれが正しい考え方とは言い切れない。だが、「購買力平価」が為替レートの中長期的な水準を示すというのが一般的な認識であろう。

筆者が大学時代に購入した教科書の中の一冊である『現代国際金融論』(小宮隆太郎・須田美矢子著、日本経済新聞社)では、為替レートの決定理論を、「短期」「中期」「長期」に分類してそれぞれを詳細に考察しているが、(あくまでも)経済学の理論をベースとした予測を行う際に参考になるのは、「長期」理論である「購買力平価」くらいであって、「短期」「中期」の理論は為替レートの予測には役に立ちそうにない、と書いてあった記憶がある。

この「購買力平価」を簡単に言えば、「為替レートは、2国の物価水準の比率(ドル円レートであれば、日米の物価水準)が為替レートに等しくなるように決まる(ニューヨークと東京で同じ種類のハンバーガーが同じ値段になるように為替レートが決まるという例え話がよく用いられる)」というものである。

だが、現実には、無数に近い「モノ」や「サービス」のそれぞれの値段の比率が1つの値(為替レート)に一致することはありえないため、政府が発表している2国の総合的な物価「指数」を用いて計算することが多い。やや専門的になるが、物価指数は、ある基準年を100として指数化され、その基準年は必ずしも世界共通ではないため、基準年の違いで物価指数が複数存在することもある。さらに、物価指数にも、消費者物価指数や生産者物価指数等、さまざまな種類があるため、計算に用いる物価指数の種類や基準年で何通りかの「購買力平価」の計算が可能となる。

いわゆる「生活者」の目線では、消費者物価指数で購買力平価を計算するのがわかりやすいが、消費者物価には大きな問題がある。それは、世界中で同じ品質の「モノ」を提供することは十分可能であるが、「サービス」の質を世界で比較するのは極めて難しい点である。

例えば、ニューヨークのメトロポリタン美術館にある有名な絵画を地元(ニューヨーク)で鑑賞する際の料金と日本の国立新美術館の特別展で鑑賞する場合、同じ絵画の鑑賞であるといって2つの料金をそのまま比較して為替レートを求めることはできないのは自明であろう(余談になるが、為替レートを消費者物価指数で割り引いた「実質為替レート」が非常にミスリーディングな解釈をもたらす理由も同様である)。

そこで、さまざまな統計の制約があるものの、「購買力平価」を計算する際には、「生産者物価(日本では企業物価)」を用いることがベターである。また、「物価水準の比率で為替レートが決まる」という元々のロジックを考えると、なるべく物価が為替レートの影響を受けていない方が望ましい。よって、購買力平価の計算には、「国内物価」を用いる方がよい(輸出入物価は為替レートとの相関性が高すぎて使えない)。

図1. 購買力平価と実際のドル円レートの推移
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