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なぜあいつが役員に? なぜあの男が社長なんだ? 『パナソニック人事抗争史』元役員たちは、こう読んだ(下)

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裏切りと謀略

「パナソニック人事抗争史」(岩瀬達哉著 講談社刊)

1991年9月、バブル経済崩壊とともに発覚したナショナルリース事件は、大阪ミナミの料亭の女将、 尾上縫に松下電器の子会社ナショナルリースが、十分な担保を押さえないまま巨額融資を続けていたもので、同社の担当社員が背任容疑で逮捕され、松下電器は 大きな社会的批判を浴びた。正治は、谷井の管理責任を問題にし、取締役会などで、事あるごとに責め立てた。

さらに約1年後には、冷蔵庫用の部品としてシャープに提供していたコンプレッサーに不具合が生じる事件が発生した。

故障の原因はシャープの設計にあったのだが、不思議なことに、松下電器の子会社で冷蔵庫用コンプレッサーを製造していた松下冷機は、自社で製造したコンプレッサーに欠陥があるかのような発表を繰り返した。

パナソニック人事抗争史』にはこの両事件の背景も詳しく書かれているが、松下冷機の元役員はこう語る。

「そういうことだったのかと合点がいきました。別々に発生したと思っていたふたつの事件は、実は繋がっていた。

要 するに、いったん収まったはずのナショナルリース事件を蒸し返し、谷井さんを精神的に追い込んでおく。その上で、マスコミへのリーク等で、冷蔵庫事件を大 げさに報道させたということでしょう。このあと谷井さんは辞任されていますから、まさに用意周到な謀略が成功したということなんでしょうな」

ブランドが傷つこうが、売り上げが落ちようが、谷井を追い落とすためなら、どんなことでもする。そんな怨念が、この事件の背景にあった。ひとつの強引な人事が生んだ裏切りと謀略だった。

谷井の失脚後は、営業部門のエースで常務取締役だった市川和夫が後継社長になると、誰もが思っていた。ところが実際は、それまで一度として社長候補にのぼったことのない森下洋一が5代目社長となったのである。

これもまた、人事の不思議な綾である。その背景事情を、元経理担当理事が、同書をひも解きながら解説する。

「これまで、なぜ、谷井さんが森下を引き上げてきたのかが、謎でした。しかしこの本を読んで得心がいった。

谷 井さんとすれば、経営改革を進めるたびに、正治さんがいろいろ口出ししてくるのがかなわんということでしょう。それで、正治さんへの説明係として、いわば 『風除け』に森下を使い、森下が引き続きその役回りを忠実にこなしてくれれば、自分が社長を退いたあとも、院政を敷けるとの計算があったのでしょう」

ところが森下は、谷井が社長を降りた途端、背を向けた。そして、人事権を有する正治のほうしか見なくなった。

相談役に退いてからの谷井は、親しい側近たちを前に、森下は何にも相談にこんもんなあ、と零すようになったという。

元技術担当役員は、こういう点が谷井さんの甘さと指摘したうえで、こう語った。

「特に指示されたわけではないでしょうが、森下は、常に正治会長の意向を忖度した経営をはじめた。だから、坊主憎けりゃ袈裟までといった具合で、谷井さんが仕掛けてきたイノベーションの数々を粉々に粉砕してしまったのでしょう」

谷 井が苦労して買収した米国の総合メディア企業MCA(現NBCユニバーサル)を、森下は、破格の値段でカナダの洋酒メーカー・シーグラム(現ビベンディ) に売却。来るデジタル時代に向け、谷井たちが仕掛けてきたビジネスプランは、潰えることになった。しかし森下自身は、それに代わる新たなビジネスプランを 打ち出せないまま、社長任期を終えている。

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