『飛行機事故はなぜなくならないのか』
55の事例でわかった本当の原因
青木謙知=著

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「想定外」が大事故を招く

 飛行機に乗るとき、頭をよぎるのが「事故」。堕ちたら一巻の終わりと考えるからか、少しの揺れにも身構えたりしてしまう。しかし実際には、揺れが原因で堕ちることはまずない。パイロットの勘違い、ちょっとした整備ミス、小さな故障など、さまざまな「想定外」が大事故を招いてきた。

 本書では、世界で起きた55事例をもとに、これまでにどんな飛行機事故が起き、それを教訓に旅客機はどう進化してきたかを解説する。


はじめに

 飛行機、特に旅客機による事故やトラブルは、大きく報道されることが多い。これは日本に限ったことではなく海外でも同様だが、広く世界に伝わるのは大事故(あるいは旅客機が係わった大事件)だけである。外国での滞在中にテレビなどで見聞きした旅客機のトラブルが、日本ではほとんど報じられていなかったことを帰国後に知り驚く、ということもままあるが、これはその事態が日本(あるいは日本人)とどのくらい関係があるかという点から報道価値が判断されるためであろう。こうした点も世界共通で、外国で何かが起きたときに自国民が巻き込まれていないかなどの関与の有無が真っ先に調べられ、その結果によって後の報道の扱いが変わっていく。

 旅客機の事故が大きく報じられる要因の一つは、犠牲者数が多数にのぼり、社会に与える衝撃や影響が大きいからだ。また移動手段として旅客機が普及を続け、より多くの人が使うことになったため、犠牲になった方々を我が身あるいは家族などに置き換えやすくなったという心情的な側面もあると思う。

 国土交通省のまとめでは、2013年(暦年)における日本の航空旅客数は、国内線旅客が約9105万人、国際線旅客(日本の航空会社のみ)が約1486万人だった。どちらにも外国人が含まれているし、一人で複数回利用している人も数えられているが、合計の約1億591万人という数は、2015年1月1日現在の日本の人口(概算値)の約1億2712万2000人に近い。大雑把な言い方をすれば、毎年日本の人口とほぼ同じ数の人が日本の旅客機に乗っていることになる。旅客機に何かが起きるときに、自分も乗り合わせているのではないかと考えるのも、ある意味頷ける。

 旅客機に乗ることに対して不安を持っている人がいることは事実だ。有名人の中で、移動には極力飛行機を使わない、と公言している人もいるし、筆者の知り合いでも「できれば乗りたくない」と漏らす人もいる。ただ、国内旅行ならば鉄道や高速道路を使うことができるが、海外旅行となると飛行機の使用はまず避けることができない。国内の移動にしても、本人の嗜好などはあるものの、日本人全体としてみると、800kmという距離が分岐点になっているとされる。移動距離が800km以下であれば鉄道や自動車を使う人が多く、800kmを超え距離が長くなるほど空の旅を選ぶ人が増加していく、という調査結果がある。飛行機は嫌だと言っていても、移動距離が延びれば仕方なく、そして恐怖心を抑えて、旅客機に乗る人が出てくるのだ。

 飛行機に乗ることへの恐怖感は、安全に飛行するように作られている乗り物とはいえ、地に足が付いていないという非日常的な状況により本能が引き起こすものであろう。そして我々は、高いところから墜ちれば怪我をすることがあり、時には命を落とすことも知っているので、飛行機が墜落したらただでは済まないという認識を有している。そしてそれは正しく、こうした認識を打ち崩せる理屈はない。

 飛行機の旅の安全性を語るときに、自動車による交通事故と比較することがある。地上の旅が空の旅よりも圧倒的に事故死者数が多い、という比較である。2013年における日本の交通事故の死者数は、4373人であった。これに対して日本国内での旅客機による乗客の死者数は0だったから、比べものにならない。世界全体と比較しても、2013年は旅客機事故による死者数は全世界で210人にすぎない。これはとくに少ない数字なので2009~13年の5年間平均も記すと510人である。いずれにせよ、数字上は旅客機の方が圧倒的に死者数は少ないのである。

 ただ個人的には、こうした比較は何の意味もないと思っている。人は、おそらくは毎日道を歩くし、毎日自動車に乗る人も多数いる。それに対して、いくら空の旅が普及したとはいえ、旅客機に乗るというのはやはり特別なことだ。利用機会にとても大きな差があるのだから、死者数に開きがあるのは当然である。

 本書は、空の旅が絶対に安全である、ということを主張するものではない。おりしも、本書のすべての作業を終えた2015年3月24日に、ジャーマンウイングスのエアバスA320-211(D-AIPX、製造番号147)がフランスの山岳地帯に墜落して、乗員・乗客計150人全員が死亡するという事故が起きた。原因の究明が今後行われるが、どのような結論が出るにしろ、それを新たな教訓にして、さらに安全性を高める対応が取られなければならない。

 旅客機による重大事故の発生率は年々減る傾向にあるが、残念ながら事故はゼロにはなっていないし、旅客機が存在する限り、ゼロが続いていくこともあり得ない。ただそれをゼロに近づけようという努力は、関係者によって常に続けられていて、制度や技術などは常に更新されており、安全性は高まっている。そのことを本書からご理解いただき、そして次の空の旅を、安らぎの心を持って楽しんでいただく一助になれば幸いである。

 本書では、いくつかの事故例を取り上げている。その際、事故機については、分かる限り登録記号(自動車でいえばナンバー・プレートのようなもの)と製造番号を記した。少々マニアックかもしれないが、インターネットには旅客機に関するさまざまなサイトがあり、この2つが分かっていればその機体の履歴(製造年、初飛行日、引き渡しと転売経歴など)をかなり細かく調べることができるので、そうした点に関心がある方への一助になればと考えて記した次第である。

著者 青木謙知(あおき・よしとも) 
航空ジャーナリスト。一九五四年札幌市生まれ。一九七七年立教大学社会科学部卒業、同年航空雑誌出版社「航空ジャーナル」入社。一九八四年『月刊航空ジャーナル』編集長。一九八八年よりフリーの航空ジャーナリストとなる。日本テレビ客員解説員。著書に『図解ボーイング787vs.エアバスA380』(講談社ブルーバックス)、『ジェット旅客機をつくる技術』(SBクリエイティブ)、『事故調査報告書が語る航空事故の真実』(イカロス出版)など多数。
『 飛行機事故はなぜなくならないのか 』
55の事例でわかった本当の原因

青木謙知=著

発行年月日: 2015/04/20
ページ数: 256
シリーズ通巻番号: B1909

定価:本体  900円(税別)
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(前書きおよび著者情報は初版刊行時点のものです)