吉本ばなな【後編】「近い人から無理のない形で、生きづらさを感じている人を活気づけられたら」
吉本ばななさんと向田麻衣さん

Lalitpurの向田麻衣が拠点とする東京、カトマンズ、ニューヨークで活躍する日本人にインタビューをする本連載、第2回目は吉本ばななさんにお話しを伺いました! 前編はこちらからご覧ください。(写真・岡村隆広/文・徳瑠里香)

生きづらさを感じている人たちを活気づける

向田: 私は、日本にいると敏感になってしまうのはなんでだろうって思うんです。ばななさんが『小さな幸せ46こ』で書かれていたエッセイ「虫」がまさにそうなんですが、ネパールではごはんに虫が入っていることって普通なんです。

吉本: 「あれ、ごまじゃなかった!」みたいなことありますよね(笑)

向田: 日本だと「ありえない! 」と思ってしまうんですが、ネパールでは普通だなと思うんです。ネパールは首都のカトマンズでも道は舗装されていない所も多く、土の道を緑の草木が囲む。野菜は土の中からいろんな虫と一緒に育っている。そこから野菜を採ってきて食べるわけだから、汚いとは思わない。部屋のなかにトカゲがいるときがありますが、「出てこないで! 」とは思うけれど、退治しようとは思わない。なぜだろう、日本は清潔だからかな。日本のすごさと奇妙さは紙一重なんだと思います。

吉本: アルゼンチンに行ったときに、広間にいたら、黒い服を着たおばあさんたちがゾロゾロやってきて楽しそうにモノを売っていたんです。気になって聞いてみたら、彼女たちは「日曜日のおかあさん」と言って、軍事政権時代に、子どもたちが軽い気持ちでデモに行ったらそのまま帰ってこなくなってしまったお母さんたちだったんですね。その話を聞いたときに、日本はデモに行っても家に帰ってごはんが食べられるような平和な国で、なんでも発言できる状況に感謝しなくちゃいけないと思ったんです。こんな平和な国はほかにないかもしれない。と同時に、子どもが政権に殺されるという悲惨なことがあっても、すごく時間がたてばこんなに楽しそうに人は笑えるんだ、ということを感じたんです。アルゼンチンは生きる悲しみや喜びがぐちゃぐちゃに混ざっている人たちがいるから、こんなにも美しいんだって。

向田: 『人生のこつあれこれ2013』のなかに「だいたいの仕組みがわかってきたから、それを書いていこう」といったことを書かれていましたが、日本の不思議さ、奇妙さ、生きづらさ…そこに向けてばななさんが伝えていきたいことはどんなことですか?

吉本: どこか苦しそうにしている人たちに話を聞いてみると、「そんなことないよ」という答えが返ってきたりして…麻痺しちゃっているのかなって思うんです。だからまずは奇妙だということを知ろうよ、と思うんですが、やっぱり近い人からしか伝えていけないのかなと。無理のない形で、生きづらさを感じている人たちを活気づけることができたら、と思っています。癒すことはできても、活気づけるところまではなかなか届かないのだけれど。

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