アメリカの影響力が低下したがゆえに生じた「バブ・エル・マンデブ海峡」を巡るイエメンの混乱

佐藤優直伝「インテリジェンスの教室」Vol.058 「文化放送」くにまる・ジャパン発言録より
襲撃された学生の遺体を確認するために集まった人々---〔PHOTO〕gettyimages

伊藤: ケニアの東部の大学で、イスラム過激派と見られる組織が学生を人質にして立てこもった事件で、死者が147人に上ったことがわかりました。これは、ケニア国家災害対策センターが(4月)2日、明らかにしたものです。

この事件は、ケニア東部のガリッサで2日早朝、覆面姿の武装集団がガリッサ大学のキャンパスを襲撃し、治安当局と銃撃戦になったものです。犯人側はキャンパス内で無差別に発砲し、学生寮で学生を人質にして立てこもりました。キリスト教徒が標的にされたと見られます。

邦丸: ニュースでは無差別と言いつつも、イスラム教を信仰している学生には手を付けなかったという話も伝わってきていますが、ケニアに拡がったということで、ここに中東と北アフリカの地図があるんですが、とにかく中東ということだけではなくて、このイスラム過激派の犯行というのはもう本当にあちらこちらで多発しているということですね。

佐藤: そうですね。それで、映画『ミクロの決死圏』みたいなことになって、どこにどういうグループがどういう歴史的経緯でということで見ようとすると、事態がよくわからなくなっちゃうんです。

邦丸: はい。

佐藤: ひと言で言うと、大きな形でのイスラムの世界帝国をつくっていこうという、こういう動きが今年の1月7~9日をきっかけに激しくなってきている。1月7~9日に何があったかというと、フランスでの連続テロ事件ですね。これが、最近のいちばんの原因なんです。

ただ、もう少し遠い過去のことになると、いつから始まったかというと、2001年9月11日。ニューヨークのツインタワーとワシントンの国防省にアルカイダが飛行機を乗っ取って自爆テロ攻撃を行った。あれ以降ですよね。

いよいよこのイスラムの過激勢力が決戦をしかけてきている。それに呼応して、ケニアでも起きる、ナイジェリアでも起きる、イエメンでも起きる、シリアでも起きる、エジプトでも起きる、イラクでも起きる、チュニジアでも起きる。こういった形で各地で多発しているという状態です。

(中略)

バブ・エル・マンデブ海峡を中心とした、ソマリア、イエメン、ジブチ、アデン港の位置関係(google mapより)

邦丸: 佐藤優さんが注目しているのは、リスナーのみなさん、「バブ・エル・マンデブ海峡」だそうです。

佐藤: といっても、場所がわかる人はいないと思うんです。いまやホルムズ海峡は、みんなわかると思うんですが。

邦丸: 集団的自衛権で、機雷の除去とかいろいろなことが言われているなかで、ホルムズ海峡というのはアラビア海からオマーンを通ってアラブ首長国連邦へ・・・・・・。

佐藤: アラビア半島の東側、地図でいうと右ですね。そのちょうど反対側、左。海賊問題で有名なジブチとイエメンがはさんでいるところの海峡が「涙の門」、すなわちバブ・エル・マンデブ海峡です。

邦丸: 幅はわずか30kmしかないですね。

佐藤: そうなんです。歴史的にうんと短くなったときは幅11kmで、そのときにどうやらアフリカから人類がわたってきたのではないかと言われています。ここは上のほうはスエズ運河ですからね。

邦丸: 上流をたどると、地中海にたどり着くんですね。

佐藤: そうです。ですから、ここがもしアルカイダ系に握られるということになると、ホルムズ海峡と同じぐらいの打撃になる。今、それが起きるかもしれないという状況になっているんです。

邦丸: ソマリアの海賊問題というのは、日本の船が安全に航行できるようにということで、日本の自衛隊も活動を続けているところですけれど、もしこのバブ・エル・マンデブ海峡のソマリア辺りをアルカイダが支配するようになったら、大変なことになる。

佐藤: 大変なことになる。しかし、大変なのはアルカイダじゃないんです。アデンという港があるんですね。

邦丸: どこにあるんですか。

佐藤: ちょうどジブチと向かい合うところ。

邦丸: イエメンですか。

サウジアラビアによるイエメン空爆の様子---〔PHOTO〕gettyimages

佐藤: そうです。昔、イエメンは南イエメンと北イエメンがありました。アデンは南イエメンの首都でした。もともとはイギリスの植民地でした。それで大きな軍港があったんですね。このアデンは、今はフーシー派というシーア派が入ってきているんですね。ここにイランの影響が及ぶということになると、また面倒臭いんです。ものすごい混乱が生じている。

なぜ、混乱が生じているかというと、簡単に言えば、アメリカの影響力が低下したということが可視化されてしまったから。ひと昔前だったら、こういう状況でイエメンが混乱したら、アメリカがすぐに空爆したわけです。アメリカを怒らせたらアメリカが来るぞ、ということがあるので、みんなおとなしくなった。

いまやアメリカは空爆しない。どうしてか。昨日(4月2日)、基本合意がだいたいまとまったと言われているんですけれど、イランの核開発問題について議論していた。これをまとめ上げたいので、イランをあまり刺激したくないからです。だから、今はサウジアラビアがイエメンを空爆しているわけです。

いずれにせよ、アメリカなしで事態が進んでいくんだという雰囲気が、世界に漂っているわけですよ。それ故に混乱している。今まではアメリカという重石があるから、あまり変なことをするとアメリカが来るから怖いなという感じだったのが、アメリカは来ないから怖くなくなった。これが混乱の原因なんです。アメリカが来ないのだったら、力で自分に有利に陣地をつくってしまおうと、いろいろな勢力は考えているんですね。・・・(以下略)

佐藤優直伝「インテリジェンスの教室」Vol.058(2015年4月8日配信)より