大阪都構想は交通システムを構築しないと成功しない。着想がマルクス的な『大阪都構想が日本を破壊する』著者・藤井聡氏の分析

佐藤優直伝「インテリジェンスの教室」vol.058 読書ノートより

●藤井聡『大阪都構想が日本を破壊する』文春新書、2015年4月

初期のマルクスは、『経済学・哲学草稿』(1844年)で、交通を軸に資本主義社会を分析した。この分析を、新幹線で行うと、次のような見方になると思う。

<つまり、東京は、周辺都市と結びつく新幹線網をほぼ完備したがゆえに、自身をコアとした巨大都市圏を形成することが可能となり、それを通して、自分自身もさらに巨大化していったのです。

いわば、東日本という広大なエリアに、新幹線網という太い根を張り、その中心にそびえ立った一本の巨木、それが「東京」という巨大都市だったのです。

一方、大阪は、岡山・広島方面、名古屋方面に対しては、東京と同じような「都市圏の一体化」を成し遂げていきましたが、距離的に近いはずの北陸方面、四国方面、山陰方面とは、新幹線で結びつけられていないがゆえに、そうした一体的発展を逆げることができなかったのです。

大阪は、西日本という広大なエリアに、新幹線という太い根を張ることができず、したがって、その中心の木も、東京のような「巨木」になりそこなっている、という次第です。
その典型例が、金沢です。
金沢は、少なくとも距離の上では、東京よりも大阪の方が圧倒的に「近い街」です。

ところが、北陸新幹線が開通した今となっては、時間的には、東京よりも大阪の方が「遠い街」となってしまいました。「サンダーバード」という在来の特急で、大阪から金沢まで3時間程度もかかってしまいます。ところが東京からだと金沢へは、2015年3月に開通した新幹線で2時間半で行けるようになりました。

このことは何を意味するのでしょうか。金沢は、これから大阪との結びつきよりも東京との結びつきをより拡大していく、ということです。

その結果、金沢がもつ「養分」は、大阪ではなく東京に供給されていき、東京は、北陸新幹線によって、ますます大きな樹木へと成長していくこととなるのです。そして逆に金沢は、北陸新幹線を通して東京から逆に様々な「養分」を吸い上げ、金沢自身も東京との関連の中で成長し、北陸と東京との一体化が進み、両者が「一体的な都市圏」を徐々に形成していくこととなるのです。

それに対し大阪は、新幹線が未整備であるがゆえに、これだけ距離が近いにもかかわらず、金沢を中心とした北陸地方と、一体的都市圏を作り上げていくことができなくなってしまっているのです。

こうした事態が北陸のみならず、四国や山陰との間でも生じています。

四国の街々や山陰の街々に行くには、現在、大阪からは、2時間から4時間程度もの時間がかかってしまいます。在来の鉄道しかないからです。一方で、それらの街々へは、実は飛行機を使えば、東京から待ち時間を入れても2時間程度で行くことが可能です。したがって今や、四国や山陰は、大阪の方が圧倒的に近い都市であるにもかかわらず、その大阪よりも東京との結びつきを強めつつあるのです。一方で、そもそも四国には、松山、高松、高知、徳島という大きなポテンシャルを持った街々があり、山陰でも、松江、米子はそれぞれ発展のポテンシャルを抱えた街なのですが、新幹線で結びつけられていないがゆえに、西日本の巨大都市圏である「大大阪」が形成されず、その結果、その中心の樹木である大阪もまた、大きく育つことができなくなっているのです。>(190~192頁)

大阪都構想は、交通システムを構築しないと成功しない。藤井聡教授の知的背景にマルクスの哲学や経済学はないと思うが、着想は実にマルクス的だ。

このテーマについて深く知るための「連読」3冊
・橋下徹/堺屋太一『体制維新――大阪都』文春新書、2011年11月
・藤井聡『公共事業が日本を救う』文春新書、2010年10月
・リチャード・H・ロービア(宮地健次郎訳)『マッカーシズム』岩波文庫、1984年1月

 佐藤優直伝「インテリジェンスの教室」vol.058(2015年4月8日配信)より