佐藤優のインテリジェンス・レポート「沖縄県と中央政府の緊張」

佐藤優直伝「インテリジェンスの教室」Vol.058 インテリジェンス・レポートより
辺野古米軍基地建設を抗議する人々---〔PHOTO〕gettyimages

【事実関係】
1. 外務省は4月1日、又吉進(またよし・すすむ)前沖縄県知事公室長を外務省参与に任命した。

2. 4月5日、那覇市内のホテルで沖縄県の翁長雄志知事が菅義偉(すが・よしひで)官房長官と会見した。

【コメント】
1.―(1)
4月に入ってから、二つの出来事によって、沖縄と中央政府の関係が緊張を強めている。第一は、又吉進:前沖縄県知事公室長の外務省参与就任だ。(略)

1.―(2)
外務省参与には通常、有力国の大使を務めた外務官僚が就任する。知事経験者が外務省参与になることは考えられるが、地方公務員出身者が就任するのは異例中の異例だ。

外務省参与には、さまざまな権限が付与される。まず、秘密指定がなされた外務省の公電(公務で用いる電報)、書類を読むことができる。さらに外交旅券が発給され、外国出張の際には日本大使館・総領事館などから便宜供与を受けることができる。もちろん出張の旅費は外務省から支出される。さらに必要に応じて機密費(正確には外務省報償費)を用いることができる。

1.―(3)
又吉氏は外務省参与に就任した動機について、「県民として、できるだけのことをするとの思い」と述べている。又吉氏としては、東京の中央政府と県の対立が強まっている状況で、両者の間をとりもつ「善意の仲介者」になろうとしているものと思われる。しかし、又吉氏が「善意の仲介者」になることは、外務省の組織文化に鑑みれば、不可能だ。

1.―(4)
外務官僚は、対立の矢面に立つことを嫌う傾向がある。自分たちはエリートなので面倒なことには極力関わらずに、現場での沖縄県民と対峙するような「汚れ仕事」は、沖縄防衛局と沖縄県警にやらせればいいと思っている。しかし、国益のために、辺野古の新基地建設を断固推進すべきと考えている。

2.―(1)
4月5日、那覇市内のホテルで沖縄県の翁長雄志知事が菅義偉官房長官と会見したが、その結果、沖縄県民の中央政府に対する不信と反発が強まった。

2.―(2)
4月6日、琉球新報は1面トップで、<「キャラウェイと重なる」/知事、弁務官例え批判 菅官房長官と初会談>と見出しをつけて、こう報じた。

<米軍普天間飛行場移設問題に関し、菅氏は「辺野古移設を断念することは普天間の固定化にもつながる。(仲井眞弘多前知事に)承認いただいた関係法令に基づき、辺野古埋め立てを粛々と進めている」と説明した。翁長氏は「『粛々』という言葉を何度も使う官房長官の姿が、米軍軍政下に『沖縄の自治は神話だ』と言った最高権力者キャラウェイ高等弁務官の姿と重なる。県民の怒りは増幅し、辺野古の新基地は絶対に建設することはできない」と強く批判した。/(中略)(翁長知事は、)日米安保体制の重要性は認識しているとした上で「基地建設のために土地を強制接収され、県民は大変な苦しみを今日まで与えられてきた。そして普天間飛行場は世界一危険になったから『危険性除去のために沖縄が負担しろ』と言う。(反対すると)『日本の安全保障はどう考えているんだ』と言う。こんな話が出ること自体、日本の政治の堕落ではないか」と批判した。>

2.―(3)
翁長知事は、安倍政権の沖縄政策が「植民地主義」そのものであるということを批判しているのである。ここで鍵になるのが、「キャラウェイ高等弁務官の姿と重なる」という表現だ。沖縄以外のメディアは、この表現が持つ重要性に気づいていない。(略)

2.―(6)
菅官房長官は4月6日の記者会見で、「今後、辺野古埋め立てを『粛々と』進めるという発言はしない」と述べた。しかし、修辞はともかく、現実として中央政府は、「粛々と」辺野古に新基地を建設するという方針を変更しないであろう。そうなると懸念されるのは、流血の衝突だ。流血が発生し、沖縄側に死者や重傷者が出るような事態になれば、沖縄の日本からの分離独立運動が急速に拡大する。・・・(以下略)

佐藤優直伝「インテリジェンスの教室」Vol.058(2015年4月8日配信)より