発音ひとつで扱われ方が変わる!? イギリス社会で信用を得やすい「オックスブリッジ・アクセント」とは

イギリス社会とオックスブリッジ
オックスフォード大学のみならず、オックスフォードの街のシンボルでもあるラドクリフカメラという図書館。

発音ひとつで階級がわかるイギリス英語

‘Hello’

この単語をどのように発音するかで、その人の生まれや育ちがわかってしまう。つまり、英語の発音やアクセントと階級が密接に結びついているのが、イギリス英語の最大の特徴のひとつである。

イギリスは、言わずと知れた階級社会で、労働者階級、中産階級、上流階級の3つに大まかに分類される(さらにそれぞれの階級が上中下層に細分化される)。イギリスでは、この階級ごとに、それぞれが話す英語の発音やアクセント、住む場所やスーパー、仕事帰りに立ち寄るパブ、進学する大学や購読する新聞など、すべてが輪切りの構造になっている。なかでもとりわけ「発音」は明らかに違っており、その人がどの階級に属しているか即座にわかってしまうほどだ。

例えばそれは、冒頭に挙げた「Hello」という短い英単語ひとつにも表れる。上流階級は、hの音を高いトーンではっきりとさせながら「ヘロウ」と発音するが、労働者階級は、hの音を脱落させて「アロー」と発音をする傾向にある。ほかにも、上流階級はthinkの最初の音を舌を挟み込むように「シィンク」と発音するが、労働者階級はfの音に置き換えて「フィンク」と発音する。出身地の方言以上に、階級が発音を決定付けるのだ。

私はオックスフォード大学修士課程で応用言語学と第二言語習得論を学び、現在は英語学校を主宰していることから、イギリス階級社会と英語の発音に強い関心を持っている。本稿では、イギリス階級社会において、「オックスブリッジ英語(アクセント)」がどのような存在であるかを読み解き、日本の英語教育について考えてみたい。

映画「マイ・フェア・レディー」に見る階級と英語の発音

「階級によって発音が異なる」という事実は、日本人にはピンと来ないかもしれない。しかし、劇作家バーナード・ショーが「イギリス人が口を開けば、間違いなく他のイギリス人の軽蔑をかうことになる」と指摘したように、イギリスでは、出身階級によって話す英語が異なる。

オードリー・ヘップバーンが主演した「マイ・フェア・レディー」という映画がわかりやすい例だろう。ロンドンに暮らす労働者階級の花売り娘であるイライザは、ひょんなことから音声学者ヒギンズ教授の指導を受けることになる。労働者階級の発音のままでは、街の生花店に勤務することが出来ないからだ。イライザの話す労働者階級の英語では、「エイ」と発音するところを「アイ」と発音したり(例:Spainを「スパイン」、rainを「ライン」など)、hの音を必要なところで発音せずに不必要なところで発音したりする(例:hurricaneを「アリケーン」、everを「ヘヴァー」など)。ところが、ヒギンズ教授の個人指導で上流階級の発音を習得したところ、ある舞踏会でイライザは王女さまに間違えられ……と展開していく物語である。

もちろん、映画なので少々大袈裟であるし、近年は上流階級の英語の使い手であったBBCのアナウンサーやレポーターの英語にも、様々な発音が見受けられるようになっている。それでもなお、階級ごとに特徴のある発音は依然として残っており、話し手の氏素姓を表すと考えられている。そして、オックスフォード・ケンブリッジ両大学関係者の発音は「オックスブリッジ・アクセント」として知られている。