二宮清純レポート 走れ!ヨシヒロ3番・丸佳浩 広島は変わった、僕も変わった(上)

ドラフト3巡目でカープに入団してから8年。中田翔や佐藤由規といったビッグネームの陰で目立たなかった青年は、今や球界の「顔」に成長した。まだ見ぬ頂へ。男にはチームを背負う覚悟がある。

「弱者の戦略」

米国を代表するノンフィクション作家マイケル・ルイスが著した『マネー・ボール』がベストセラーになったのは、今から12年前のことだ。4年前には映画化もされた。

物語の主人公はアスレチックスGMのビリー・ビーン。潤沢な資金力を誇るチームが、それに見合った成績を収めるのはメジャーリーグのみならず、プロスポーツの常だが、アスレチックスは少ない投資額で驚くほどの成果を得た。その陣頭指揮を執ったのがビーンである。

言うなればローコスト、ハイリターン。アスレチックスは2000年から'03年まで4年連続でプレーオフに進出したが、年俸総額は〝金満球団〟ヤンキースの約3分の1。それでいて、ほぼ同等の成績を収めたわけだから、いやが上にもビーンの株は上がった。

では、敏腕GMはどんな奥の手を用いたのか。といってもマジックではない。ロジックである。端的に言えば、数字の吟味である。どの数字を金庫にしまい、どの数字をクズカゴに捨てるか。

たとえば野手を獲るにあたり、ビーンは打率や盗塁数などには見向きもしなかった。勝利に直結する数字として彼が最も重視したのが出塁率である。そうか、その手があったのか。アスレチックスが先行者利益を享受したのは言うまでもない。

ビーンの手法を〝弱者の戦略〟と見なすならば、24年ぶりのリーグ優勝を目指す広島などは、もっと導入に積極的であっていいのではないか。

ビーン好みの選手もいる。昨季、リーグトップの100四球を選び、リーグ2位の出塁率(4割1分9厘)を記録した丸佳浩である。1位のウラディミール・バレンティン(東京ヤクルト)とは、わずか3糸差だった。

理想の3番打者

侍ジャパンにも選出され、今や日本を代表する外野手に成長した丸に、今季の目標を訊ねると、「低めのボール球に手を出さないこと」という答えが返ってきた。

シーズンの目標に打率や打点、あるいは本塁打数をあげるバッターは少なくない。問題は、それを達成するためにどうするかだ。問われるのは方法論である。

丸の目標は極めて具体的だ。しかも可視化されている。低めのボール球を捨てれば、おのずと打率と出塁率も上がる。ひいてはチームに貢献できると彼は考えているのだ。