賢者の知恵
2015年03月31日(火)

論説「大阪都構想『住民投票』で問われるのは、大阪の大都市の将来についてだ」 ―藤井聡氏の「7つの事実」に反論する―
【後編】

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筆者の佐々木信夫・中央大学大学院教授

【前編】【中編】では、藤井聡・京都大学大学院教授が主張している「大阪都構想」を批判するための「7つの事実」のうち、「『大阪都』にはならない」「大阪市を解体、5つの特別区に分割」「大阪市民の税金2200億円流出と使途」「特別区の人口比3割」について反論した。

【後編】では、まず残る「2つの事実」について反論する。

「東京市」がないから損している!?

争論6.「東京23区の人々は、「東京市」が無いせいで「損」をしている。」

 →筆者など長らく都政を担当し、日常的に東京で生活しているが、東京区部に住む区民の方々から「区部に住んで損をしている」という話など聞いたことはない。いったい、どういう論拠と文脈でそう言えるのか。

もし類推でそう述べているのなら、特別区制度を積極的に評価しよい暮らしができていると考えて住み着いている850万区民に対し、どう説明するのだろうか。反論の根拠は先の「2200億円損をしている論」にあるとするなら、それは全くの見当はずれである。 

もし逆に「得をしている」という話が出てきたらどうする。多摩26市に対し、東京23区は豊かで「3多摩格差が著しい」、多摩担当の副知事を置いてもっとテコ入れをして欲しいと、多摩市民からは羨望視されているのが、現在の区部である。事実、市部から一歩区部に入ると、隣接地で50坪の土地が1000~2000万円差が出る。区部の評価が高いのである。

これはビジネスというより、生活レベルの公共サービスの手厚さや公共資本の整備状況を反映したものである。東京市があったら、という想定は今や都民の中には考えられまい。勝手な想像で、東京市民論を持ち出すのは、如何なものかと思料する。850万の市など、1国になるならともかく、ひとつの市であるべきだなどとの論はいまや先進諸国では暴論としか言われないであろう。

現在、都制度(都区制度)は東京にしかないので、大阪でイメージが湧きにくいかもしれないが、ここで少し東京の都市構造との関連も見ながら、その制度の妙味を説明しておこう。いかに23区部と26市部が依存関係の中で成り立ち、特別区に住む住民が全体として豊かさを享受できる仕組みにあるかが分かろう。

東京23区には通常の府県と市町村との関係と異なり、都区制度という東京都との特殊な関係がある。

かつて都制といわれたこの制度は、都区財政調整制度にひとつ表れている。本来であれば23区の税源となる固定資産税、市町村民税法人税分、特別土地保有税を東京都が徴収し、55%を23区間の財政力格差の是正や財源保障に充て、残る45%を都の実施する消防、上下水、交通などの事業に投入している。ミニ交付税制度に近いものである。

都は府県業務と基礎自治体の一部の業務を実施する二つの重なった自治体ともいえる。そこでの特別区は法律上特別地方公共団体と呼ばれている。限定された目的を実現する自治団体に使われる用語だが、市町村並みの仕事をしながらこう扱われることに特別区は違う法的位置づけと呼称を求める向きがない訳ではないが、しかし、850万区民は地域の経済力が異なっても、同じサービス水準を受けられることに満足している面も大きい。

確かに、戦時下の昭和18(1943)年に東京府と東京市が合体し東京都となって以来、特別区を内部に抱える仕組みが「都制」(昭和50年の区長公選移行、都区制度と呼ぶ習わし)である。

都区制度を維持してきた理由は大きく次の3つある。

第1.特別区の区域は、沿革的にみて常に1つの大都市を形成しながら発展してきた。日本の国心にあたる区部は、一般の市のように独立して発展したものではなく、いわば旧「東京市」という巨大都市として一体的に発展してきたもの。

第2.それぞれの区は、相互に緊密な関係にあり、区部全体が有機的一体性を有しており、各区は相互に相互補完関係を保ちながら、全体として一つにまとまっている。

第3.区部の住民は、その属する区の財政力の強弱に関わらず、一様で均衡の取れた負担を負い、そこで受ける行政サービスは公平、同質であることを求めている。
こうした理由を一言でいえば、「大都市の一体性」ということになる。大都市の一体性を都が確保しながら、一方で自治権を強化する特別区制度の採用はまさに高度に発展した都市地域の地方自治制度として優れている、工夫された制度であると筆者は考える。

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