論説「大阪都構想『住民投票』で問われるのは、大阪の大都市の将来についてだ」 ―藤井聡氏の「7つの事実」に反論する― 
【中編】

佐々木 信夫

「流出した2200億円」は大阪市「外」で使われるか

争論4「流出した2200億円の多くが、大阪市「外」に使われる。」

 →上記の説明で尽くしているので、事実4として藤井教授が挙げている事項は、説明を要しまい。事実4としての指摘は事実ではなく、「誤認4」であると厳しく指摘せざるをえない。都区財政調整制度を使って生活している東京特別区民が、こうした指摘をどう受け止めるか。事実6の指摘とも関連するが、あまりにも曲解した自己流の説明であり、行財政制度の無理解も甚だしい。

藤井氏の執拗に指摘している「大阪市が損をする」論を聞いていて、19世紀前半に活躍したドイツの経済学者、J.H.チューネンの「孤立国」の話を想起した。この図の中央の黒点が都市で、1(白)は酪農と園芸農業、2(緑)は林業と薪炭業、3(黄)は穀作、畑作農業、4(赤)は牧畜、さらに外側の濃緑は、農業が採算性をもたない原野を表しているが、じつは都市は孤立しているようにみえるが、同心円の中心にあって周囲からすべての資源を供給されることで成り立っているという話。

チューネンの「孤立国」の図

現代風に置き換えるなら、中心都市はビジネスの拠点であるが、2重、3重に工業地、商業地、住宅地などに囲まれ、それとの相互依存関係のなかで生きているという理解となろう。大阪市があたかも中心で孤立して成り立っているような「市税が流出し、損だ」という話は、都市圏の構造を理解しないまさに小さな都市孤立論(エゴ)の考え方ではなかろうか。

チューネンの話は、農業国家時代の話だが、第3次産業中心の高度産業国家における都市論にも大きな示唆を与えている。

大阪の場合も、大阪市という大阪府全体の中からすると図の1と2を加えたようなところに位置しようが、その外延部との相互依存関係の中で初めて成り立つ関係にある。2200億円は市外に使われることはないという話は先述の通りであるが、じつは中心部に当たる大阪市は、市外から毎日流入する超過人口に経費が掛かる。一方で、その超過人口の働きによって、ないし消費によって潤っている。

この関係を筆者は、東京区部とそれ以外の多摩市部、及び隣接3県から流入してくる超過流入人口の損得を財政上の計算で都庁企画審議室時代、行ったことがある。おおざっぱにいうと、東京区部が概ね400万人の純流入に4000億円(経費)の持ち出しがあった(これを大都市超過需要と呼ぶ)が、しかし一方、この400万人が働き、消費する区部への寄与度を計算すると5000億円の税収増(これを大都市機能超過分と呼ぶ)となる関係にあった。

すると、最初、区部は損をしているという話を持ち出し、国も大都市超過経費を交付税等でみろ! という主張を政府にしていたが、後者の大都市機能の超過税収分が差し引き1000億円にも上ると出たところで、この主張をやめた経緯がある(数値は概算であり、現在地に換算したもの)。公になっている話ではないが、周縁部と都心部はそうした関係にあるのである。

藤井氏の2200億円損論は、別な角度から計算すると、大阪市域は今まで周縁部のお蔭で「徳」をしてきたという論も成り立つ。おそらく、この主張を周縁部が科学的に証明してくると、周縁部にむしろ財政移転をせよという主張が出てくる可能性もある。

都市とはそうしたもの。孤立した国の農村国家時代の都市論に類似した説明は、現代都市国家には合わないのではなかろうか。