賢者の知恵
2015年03月30日(月) 佐々木信夫(中央大学教授、法学博士)

論説「大阪都構想『住民投票』で問われるのは、大阪の大都市の将来についてだ」 ―藤井聡氏の「7つの事実」に反論する― 
【中編】

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筆者の佐々木信夫・中央大学大学院教授

【前編】では、藤井聡・京都大学大学院教授が主張している「大阪都構想」に関する「7つの事実」のうち、「『大阪都』にはならない」「大阪市を解体、5つの特別区に分割」について反論した。

【中編】では、続く「3つの事実」について反論する。

藤井聡氏の大阪都構想を批判する「7つの事実」、当『現代ビジネス』での主張は以下を参照してください(編集部)「7つの事実」http://www.mitsuhashitakaaki.net/2015/01/27/fijii/「大阪都構想:隠された真実を考える~なぜ、大阪市民の税金は、市『外』に流用されるのか?」http://gendai.ismedia.jp/articles/-/42056「大阪構想のデメリット「市の五分割」によって行政コストが上がるというリスク」http://gendai.ismedia.jp/articles/-/42289

 

大阪市民の税金は「流出」するか

争論3.「年間2200億円の大阪市民の税金が市外に「流出」する。」

→この説明も全くの間違い。都区制度の仕組みを全く理解していない説明である。まず、実際に都区制度を採用している東京都の「職員ハンドブック」でこう述べている。

――現行の自治法は、大都市行政については、大都市等に関する特例として指定都市の定めのほか、特別地方公共団体としての特別区の規定を設けている。指定都市制度と特別区制度の相違は、大まかにいえば、前者大都市行政の合理的能率的処理に資するため、市が府県機能の一部を担うのに対し、後者は特別区の存する地域における一体性及び統一性を確保するために、都が一般の市の権能の一部を担うところにある。特別区制度が指定都市制度の外に設けられた理由は、特別区の区域に指定都市制度では対応しきれない規模として、既存の指定都市を相当上回る人口数百万程度の一体となった社会的実態があることと同時に、該当区域の行政について1つの地方公共団体である指定都市で対応することに問題があると考えられていることによるものである。――(同書P163、東京都発行)

まずこの説明を大阪市に当てはめると、概ね100万都市を想定してつくられた昭和31年指定の指定都市制度だが、現在70万まで指定要件を下げているが、現存する20都市のうち、都市の中枢性や経済・人口規模で大阪市は270万と突出している。

人口規模だけなら369万人の横浜市も突出しているが、東京への依存性が強く、昼夜間人口比率も1.0を割り込むなど、ベットタウンの性格と中枢性に欠けるという性格を有しており、大阪市とは比較にならない。

他に200万都市の名古屋があるが、ひととき中京都構想を持ち出した時期があるが、トヨタ依存の企業城下町的性格を払しょくできず、中枢性は大きく欠けるとの判断から現在議論は立ち消えになっている。札幌、仙台、広島、福岡は100万からそう大きく抜け出している都市ではなく、ブロック圏域の中心都市の位置づけである。

その点、大阪市の場合、もはや指定都市で対応できる都市レベルをはるかに超え、人口規模等で東京より小ぶりとはいえ、日本を代表する、そして西日本の中枢都市として歴史的にも大きな役割を担ってきており、わが国の副首都として首都機能の一部移転も可能な大都市であり、今後、東京一極集中を緩和する観点からも、大阪、東京の二都構想を実現することは国家的命題ともいえる。こうした理由から、大阪都、特別区を創出することは極めて時宜にかなっている。

適用される「都区制度」の特徴のひとつは都区財政調整制度にある。大阪市から大阪府(都)に移管する事務事業(広域系)の経費として、2200億円を財政移転することは、行財政一体の原則から当然だが、それが大阪市区域以外にすべて流出し、藤井教授が指摘するような「市民が損をする」という話が成り立つかどうかである。

――都区財政調整は、都が条例により特別区財政調整交付金(以下、交付金)を特別区に交付することによって行われる。この財源は調整3税(固定資産税、市町村民税法人分、特別土地保有税)を条例の定める一定割合で配分するものだが、東京都は、交付金に関する経理を処理するため、特別会計を設置しており、調整3税を条例に基づき交付金として公布している。――
(東京都職員ハンドブック)。

そもそも、都区制度においては、都が大都市地域における行政の一体性及び統一性の確保の観点から必要な事務を担い、特別区が、それらの事務を除いた市町村の事務を担うこととされている。そして、この事務分担に応じて、都と特別区の財政調整交付金の配分割合が決められる仕組みになっている。

基本的にこのルールが大阪にも適用されることになるが、大阪の場合は、事務分担と財源配分の関係がより明確なものになっている。東京と違い、大阪の場合、既存の大阪市からの事務移管を伴うことから、移管される広域行政、具体的に言うと、特別区設置協定書に記載の消防、下水道、大学などの事務に係わる経費の財政移転が発足時に伴うということである。

あくまで、これまで大阪市が行ってきたこれらの事務を大阪府が行うことになる見合いで財源が移転するにすぎない。この関係性は極めて明快である。かりに、大阪府が承継した事務がなくなれば、お金の使い道がなくなり、その財源は特別区のサービスに使われることになるのである。約700億円の公債負担金を含め約2200億円が府(都)に移るが、藤井教授が指摘するような、これまで市内に使っていたのが、市外に流出する仕組みになるものではない。

さらに、こうした使い道の挙証責任を誰が負うかが重要である。内部団体から進化した東京の都と特別区の関係と違い、大阪市から事務の移管を受ける大阪では、大阪府が挙証責任を負うことになる。

これを検証するための場が都区協議会である。都区協議会において、使い道の検証、それを踏まえた財政調整財源の配分割合が協議されることになる。

あくまで、証明するのは大阪府サイドであり、大阪府が勝手に使い道を決められるといったものではなく、それぞれの事務に応じて財源が使われることは自明である。

こうしたことを、透明性をもって行えるよう、何にでも、どこにでも使える一般会計と異なり、使途が限定され、財布として独立し、都区協議会で監視する「移管に係わる資金」として「特別会計」が設置され、すべて移管の趣旨にそって旧大阪市区域の広域行政費用として使われる。

市域外に流出するとの論については、特別会計と一般会計の違いを理解していないもの。特別会計の財源は、その設置目的に沿って支出されることになり、特別会計の金額が決定された以後は、その会計の設計通り、支出が行われていくことになる。したがって、市域外に流出するようなことはあり得ない。

さらに、府(都)議会の議席数が大阪市区域外の選出が7割であり、多数決で大阪市域外に流出するとの論に至っては、大阪府が大阪市から引き継いだ消防などの事務を全部放棄して違うことに使うといったことがあるなら別だが、議員構成をもって、市域外に流出すると決めつけるような論は全くの暴論。

以上のような事から、疑念で示されているような大阪市の2200億円が流出するといった類の話は、地方自治を知らない人の妄言と言わざるを得ない。

さらに補足すれば、大阪都区財政調整の財源のうち、市から移管された広域業務(市債償還分も含む)のために充てられるものを除いた全てが特別区間の財政格差是正など特別区民のために還元される。ちなみに現在の東京都の配分割合は、東京都分が45%、特別区配分が55%となっている。この観点からすると、大阪の場合、府(都)が使う分が約23%、特別区配分が約77%とじつに旧大阪市、すなわち特別区に手厚い配分となっていることが分かる。

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