医療・健康・食
群大病院医療事故調の「過失認定」は実は大問題ではないか
文/上 昌広(東京大学医科学研究所特任教授)

群大医学部病院は事故調が過失を認定。これで、まともな議論が出来なくなった(病院HPより)

我が国の医療が危機を迎えている。群大の腹腔鏡事故が医療への信頼を損ね、長年にわたり積み重ねてきた医療事故対応の在り方の議論が根底から覆されようとされているからだ。

あまり世間では話題にならないが、私が問題と考えるのは、群大が院内に設置した事故調査委員会が過失を認定したことだ。これで、まともな議論は出来なくなった。

群馬大の対応は「トカゲの尻尾切り」に過ぎない

3月3日、読売新聞は「腹腔鏡死亡8人の全例過失認め謝罪」と報じた。そして、「群大病院調査「不十分」 弁護団、刑事告訴検討(読売新聞3月7日)」へと繋がった。群大は自ら過失を認めており、大勢の死者が出ているのだから、担当医は業務上過失致死で刑事処分されるべきだという理屈だ。

ただ、この理屈はいただけない。真相は兎も角、とりあえず謝っておけば、世間は誠実な対応と評価する。群大病院幹部の対応の実態は、現場に責任を押しつけたトカゲの尻尾切りに過ぎない。

これでは将来に禍根を残す。こんな形で事故調査報告が使われれば、誰も真相を語らなくなるからだ。事故調査委員会の仕事は真相究明であり、過失認定は慎重であるべきだ。

なぜ、私が過失認定に拘るかというと、「過失」という言葉は使う人によって意味あいが異なるからだ。

元検事の故・河上和雄氏は、医療事故調査委員会の在り方を議論する際、「過失概念は法的概念であって、医学的概念ではない。医師を中心とする委員会の委員で真の意味の過失概念を理解している人物を多数揃えることはまず不可能であろう。」と語った。

過失は法律専門語であり、一般の使い方とは違うと言うわけだ。裁判員制度は業過致死を対象から除外している。

ちなみに、河上氏の発言は、2004年に起こった福島県立大野病院産科医師逮捕事件の際のものだ。それ以来、医療界は議論を積み重ねてきた。そして辿り着いた結論は、真相究明と責任追及は別個に扱うべきというものだ。