いまISの広報活動の芽を摘まないと、あとでとんでもないテロになって日本に返ってくる

佐藤優直伝「インテリジェンスの教室」Vol.057 くにまるジャパン・発言録より
ISによるバルドー博物館の銃弾の跡〔PHOTO〕gettyimages

伊藤: 共同通信によりますと、チュニジアの首都チュニスにある博物館で日本人3人を含む外国人らが犠牲となったテロで、過激派組織「イスラム国」は19日、インターネット上で犯行を認める声明を出しました。声明は音声によるもので、犯行を認めたうえ、治安部隊に射殺された2人の実行犯を称えています。

この事件は、チュニスのバルドー博物館で18日、銃で武装した集団が観光客らを襲撃したもので、チュニジア政府によりますと、日本人3人を含む外国人観光客ら21人が犠牲になりました。チュニジア政府は、イスラム過激派のアンサール・シャリアによるものと断定しています。

この武装組織も声明を発表し、2人による犯行の様子を詳しく説明して、さらなる攻撃を予告しました。「イスラム国」とこの組織がどのように協調したのかは不明ですが、シリアとイラクを拠点とする「イスラム国」の犯行声明には、北アフリカで影響力を拡大する狙いがあると見られます。

一方、チュニジアの大統領府は、テロに関与したとして4人を逮捕したと発表しました。

邦丸: これもIS(いわゆるイスラム国)が、犯行声明というわけじゃないんだけれど、まあほぼ犯行声明に近いことを言っている。これは優さんが先日、「イスラム国」に日本の後藤健二さんと湯川遥菜さんが拘束されて最終的には命を奪われたときにもおっしゃっていましたが、今の「イスラム国」とか、こういうようなイスラム過激派組織の人たちというのは、上から命令が下って組織的に動くのではなくて、同時多発的に「お前らの自由にやれ」ということになっていて、元をたどっていくことに矛盾を感じるようになってきているということですね。

佐藤: そのとおりです。フランチャイズ制を敷いているはずだったんだけれど、それが崩れて、名前だけは名乗っているという感じですよね。ですから報道によれば、「イスラム国」は直接かかわっているのではなく、同志がやったから追認しておこうということで、自分たちを大きく見せようとしているということですが、方向は一緒です。

後藤健二さんの首にナイフを突きつけたジハーディ・ジョンは何て言いました? 「日本人は健二だけでなく、みんなやられる」と言ったでしょ。そのとおりになっているということですよ。

邦丸: うーむ・・・・・・。

佐藤: チュニジアというのは、外務省が発表する渡航危険度においても「安全に注意してくださいね」という、危ない所のなかでもいちばん緩い基準だったんですよ。確かにチュニジアの政府は弱いけれど、少なくとも首都のチュニスは押さえていると、みんなが見ていた。そこを敢えて攻撃して、無差別テロをやることによって「安全な場所は一ヵ所もないぞ、『イスラム国』のもとに従え」というメッセージを出しているんですね。

邦丸: うむ。

佐藤: これは絶対にテロに敗けてはいけないわけですよ。

邦丸: チュニジアってジャスミン革命、アラブの春の発端となった国でもあるんだけれど、そのときにそれまでの体制にいた人たちは排除されているわけですよね。

佐藤: そうです。

邦丸: どこに行ったかというと、一説によると、このISのいわゆる兵士と言われている人たちの4分の1近くはチュニジアから行っているんじゃないかということですね。

佐藤: その可能性は十分にありますね。あるいは、リビアのカダフィ政権の傭兵たちもそっちに流れています。だから大変なんですよ。

ちょっと怖い話をすると、「イスラム国」を完全に解体したとするでしょ。そうすると「イスラム国」の兵士が全部分散しますよね。そしてまた、別の拠点をつくる可能性があるんですよ。意外にみんな注目していないのは、中国なんですよ。

邦丸: 中国!

佐藤: 中国の新疆ウイグルからキルギス、タジク、カザフスタンの東部の辺りは統治がなされていないですからね。もし、ここに拠点ができると、東南アジアは近いですし日本も近いですから、そうとう深刻なことになりますよ。

邦丸: うーむ。

佐藤: ですから、「イスラム国」との戦いというのはきちんとしないといけない。そのためにはまず、われわれがやらなければいけないのは、このことを勉強しなければいけない。勉強しなければいけないということで重要なのは、こういう変な風体をしているからと、「イスラム国」の宣伝をしているような人をおもしろおかしくどんどん出してくるとか、エピソード主義で「オレが知っている『イスラム国』の軍司令官にいいヤツがいたんだけれど、その話をしたい」という人を出してくるとかいうことがいかに危険か知るべきです。ナチスにだって人間としていいヤツはいたわけですからね。

そういう宣伝がいかに危険かという危機意識を持って、これはやはり叩き潰さなくてはいけないんだということで、国民の意思を統一しなければいけないと思うんですよ。有識者の責任はすごく大きいと思いますね。これはナチスと同じですから、ナチスが台頭したときのことをもう一度反省して、オウム真理教のときの反省と一緒ですから、初動のなかで気づいている人たちが全力を挙げて、そういったものがテロ活動に走るのを阻止しなければならないんです。

邦丸: 芽を摘まなければいけないんですね。

佐藤: そうです。われわれのような中東も見ている、インテリジェンスがわかる、ロシアがわかる専門家というのは、特に重い責任があるんですよ。だから、中東専門家の人たちに呼びかけたいのだけれど、自分の専門地域がかわいいから、「イスラム国」に対して、「ちょっと変なところもあるけれど、中東はかわいそうな状況に置かれて、植民地下に置かれていたから、この人たちのことも理解してやろう」なんていうことをやっていると、それがとんでもないテロになって日本に返ってくるということですよ。

私はほとんどの中東専門家のコメントを聞いていて、事実からずれているし、プリズムにかけて小さなことを大きく見せて重要なことを映さない、というのが多いと思う。国民はそれをそのまま信じるわけではないけれど、なんとなく「難しくてわかんない」という感じになってしまうと思うんです。

邦丸: うむ。

佐藤: これはわからない話ではない。わかりやすい話なんです。自分たちは絶対に正しいと信じることを世界中に強制して、言うことを聞かないヤツは殺す、あるいは奴隷にする。こういうことを考えている人たちだ。そういうような人たちというのは、どの時代にも世の中には少しはいるものなんですが、そういうような人たちに大手を振って歩かせてはいけないということなんですよ。・・・(以下略)

佐藤優直伝「インテリジェンスの教室」Vol.057(2015年3月25日配信)より