読書人の雑誌『本』
社会をよりよく変えるため「闇の中の対話」日本開催に奮闘した男のチャレンジの記録---志村真介・著『暗闇から世界が変わる』

暗闇で世界が変わる

(文・志村真介)

果てしなく真っ暗な暗闇に身を置いたことはありますか? 一筋の光も射さない完全暗転の世界です。私はそのような真っ暗闇をつくり、その中に人を招き対話をさせる。そんな奇妙奇天烈なイベントを日本で開催しています。

名称は『ダイアログ・イン・ザ・ダーク』(www.dialoginthedark.com 以下DID)。
これはドイツ人の哲学者、アンドレアス・ハイネッケ博士の発案により26年前、ドイツで誕生し、瞬く間にヨーロッパに広がり現在では35ヵ国で開催されています。日本での初開催は16年前のことです。

人は暗闇を嫌います。人が動物より優れている理由は幾つもありますが、言葉を持ったこと、そして火を扱うことができたことが最も大きな差です。
そこで私たちの祖先は灯りを自由に扱うために大きな努力をしてきました。現在でもその研究と開発は私が知る範囲を超えたものとなっているのでしょう。時代とともに進化し続けた灯り。同時に私たちは五感の中の一つである視覚を使い情報を得る能力を発達させてきました。
しかしそのために他の五感の力は衰え、結果私たちはずいぶん偏った物の見方をするようになりました。「見た目による偏見や差別」もその一つと言えるでしょう。

DIDの発案者であるハイネッケの父はドイツ人、母はユダヤ人です。幼い頃は両親ともドイツ人と聞かされていた彼は、その事実を13歳で知り大きなショックを受けます。歴史的背景による大きな溝は深い問題を孕み、家族は苦しみやがて彼の両親は離婚をします。

ハイネッケは民族、文化が違うだけで差別が起き、同じ人間同士が苦しみをもたらし、戦う存在となる理由と解決法を探求するため哲学を学びます。その中で東欧の哲学者マルティン・ブーバーの「対話の哲学」に出会い、異なった文化が融合するには対等な対話が必要だということを確信しました。しかし対等な対話ができる場を設定することは容易ではありません。そこで彼は人間が情報を得るために最も必要とする視覚を遮断することを思いつきました。人類の叡智の象徴である灯りを消し、その暗闇を平和利用することにしたのです。

DIDでは、真っ暗な中に8名1チームで入場し、互いが助けあいながら歩きます。暗闇の中には森や小川、公園があり、小鳥がさえずり、せせらぎの音も聞こえてきます。しかし目を使わないで先に進むことは困難なため、日常から視覚に頼らないで生活する全盲の人が登場し、暗闇を案内するファシリテーターとなります。

それはまるで上質な音楽をたった8名で聴くような贅沢な時間ですが、それだけではありません。そこでは、私たちがふだん思いこんでいる「強者が弱者を助ける」という関係性は逆転しています。それどころか、ふだんの立場や役割、年齢や性差、障害の有無は消えるため、フラットな関係が構築できます。出会って間もない見知らぬ人に助けられたり、助けたりするうちに、いつしか自分中心の世界から脱出し多様性を受け入れ、互いを信頼し合えるようになります。暗闇から元の世界に戻った時、私たちの価値観は大きく変化しています。

私はヨーロッパで大人気と賞賛され高い評価を受けているこのプロジェクトを1993年4月に日本経済新聞の小さな記事で読み大きな感銘を受けたのです。そしてハイネッケにお願いし日本で開催する許可を得ました。

しかし日本でのDIDの発展は、国や企業の援助で開催されている他国と異なり、多くの目には見えない社会通念、人々の固定概念の壁が立ちはだかり、容易ではありませんでした。けれどソーシャルイノベーションとなるこの革命的なDIDは、いまの世の中になくてはならない社会変換装置だと確信しています。

あきらめることなく推進した結果、DIDを体験された15万人の方々が、何らかの気づきや発見を得、そしてご自身や周りに対し能動的な働きをなし、その結果社会変革のロールモデルとして具体的に行動されています。

昨今日本にも社会をよりよく変えていきたいと願う志のある若者が多く出現しています。そこで日本におけるDID開催プロセスを公開することにより、志を持つ方たちの活動のヒントにしていただければと願い、本書『暗闇から世界が変わる ダイアログ・イン・ザ・ダーク・ジャパンの挑戦』(講談社現代新書)では、私の失敗も含めた事例を具体的に書くことにしました。

山あり谷あり、底なし沼あり、まるでケモノ道を歩くような格好わるい私の人生ですが、どんな状況が起きてもあきらめず続ければ実現できる。そんな勇気にしていただけたらと願っています。

(しむら・しんすけ ダイアログ・イン・ザ・ダーク・ジャパン代表)
講談社 読書人の雑誌「本」2015年4月号より

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志村 真介(しむら・しんすけ)
1962年生まれ、関西学院大学・商学部卒。コンサルティングファームフェロー等を経て1999年からダイアログ・イン・ザ・ダーク (www.dialoginthedark.com)の日本開催を主宰。1993年日本経済新聞の記事で「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」と出会う。感銘を受け発案者ハイネッケに手紙を書き日本開催の承諾を得る。日本初開催後、10年間短期イベントとして開催。視覚障碍者の新しい雇用創出と誰もが対等に対話できるソーシャルプラットフォームを提供。2009年東京外苑前で常設開始。既に体験者は15万人を超える。2013年より大阪「対話のある家」を積水ハウスと展開中。

志村真介・著
『暗闇から世界が変わる ダイアログ・イン・ザ・ダーク・ジャパンの挑戦』
講談社現代新書 税別価格:760円

1993年、ある日出合った新聞の囲み記事─―欧州で視覚障がい者が案内する「闇の中の対話」というイベントが流行っているという記事─―を見て、「これだ」と思ったことから、最初はひとり、まったく手探りの社会を変える挑戦が始まった。
「ダイアログ・イン・ザ・ダーク・ジャパン(暗闇の中の対話)」創始者による波瀾万丈の物語。日本の希望がここにある。

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