短期集中連載 第1回
スピーチができないとベスト10に入れないと言われた錦織圭選手 

堀尾正明さん
NHKアナウンサー時代、夏にアテネ五輪開会式の実況をつとめ、その冬に「紅白歌合戦」の総合司会をやるという、よく考えるととんでもない偉業を成し遂げたのが、現在「Nスタ ニュースワイド」(TBS系)や「土曜朝イチエンタ。堀尾正明+PLUS!」(TBSラジオ)でおなじみの、キャスターを務める堀尾正明さん。インタビュー相手の本音を引き出すことに定評のある会話の名人が、「おしゃべりの極意」「人たらしの会話術」を著名人の豊富なエピソードとともに、短期連載で伝授します。

全米オープンでの錦織選手の英語スピーチに感銘

日本人として史上初めてテニスの四大大会(グランドスラム)シングルスで決勝に進んだ錦織圭選手の活躍には日本中が沸きました。

私もテニスを少しかじる人間として、それがどれほどの偉業なのかわかります。誤解を恐れずに言えば、おそらくサッカー日本代表がワールドカップで決勝戦に出るよりもはるかに難しいことです。

欧米人より体格や体力が劣るといわれてきた日本人選手が、コート上たったひとりの力で、プロテニス史上初めてグランドスラム大会で世界ランキング1位の選手(準決勝でセルビアのジョコビッチ選手)を破る日がやってきたのです。

奇跡に近いこと、だから感激です。

というのも、テニスというスポーツは個人競技なので日本人が得意とする「組織力を生かしたプレー」ができないし、コ―トの広さからして俊敏さや器用さだけで通用するスポーツではないからです。

にもかかわらず、日本人がここまで強くなれた。その理由は彼が持っている素質と人一倍の猛練習、精神力の強さの表れであることは言うまでもありませんが、もうひとつ、世界の舞台で誰の前でも自分の思いを表現できる力を持っていたからだと思います。

彼自身も言っていました。自分はスピーチの練習がいちばん苦手であり、その猛特訓を受けるのが何より苦しかったと。

しかし彼のスタッフは、「スピーチを満足にできない人間がプロテニスの世界でトップ10に入れないこと」を知っていました。だからこそ、コート上だけでなくプレゼンテーションする力を徹底的にトレーニングしていったといいます。

全米オープン表彰式での彼の英語でのスピーチは、見事、さすがでした。

そのなめらかな英語力だけでなく、試合相手を称えながら決しておごらない謙虚な姿が感動を与えました。160ヵ国に中継している全米オープン、世界中が日本人の表現の豊かさに感動したことでしょう。それが何よりうれしく感じられました。