シマコービジネススクール 第2回
~なぜ会長・島耕作は農業に夢中なのか~

早稲田大学ビジネススクール准教授 長内厚

 シマコービジネススクールとは?
日本を代表するビジネスマンガといえる「島耕作」シリーズ。大手家電メーカーで働く主人公が、現代企業版「のらくろ」のように出世をする過程で、様々なビジネスや事件を体験していきます。ストーリーには、著者の弘兼憲史先生の綿密な取材を基にした実話エピソードもちりばめられていて、企業、特に製造業の ケーススタディーの素材としても活用できるほど。
そこで、このコーナーでは、早稲田大学ビジネススクール(大学院商学研究科)で技術経営・経営戦略論を教える筆者が、島耕作シリーズのケーススタディーを通じて、ビジネススクールの講義のエッセンスをお話しします。

【第1回】はこちらをご覧ください。

まずはお詫びから。読者の皆様、編集部の皆様、連載第1回目の掲載後からまさかの1年を越える休載。周りの人からも「あれ、連載だったの?」と言われる始末。本当に申し訳ございませんでした。第2回目を掲載してもらえるかドキドキしながら原稿を書いております。

昨年は講談社から私のゼミに刺客(=夜間社会人MBA学生として入学してきた社員)が送り込まれ、「納得のいく修士論文が書けるまで修了しません」という真綿で首を絞められるようなプレッシャーに耐えきれず、というわけでもないのですが、公私ともに色々ございまして・・・。

今後はきちんと定期的に原稿を出していきますので、なにとぞ、お見捨てなきよう、心からお願い申し上げますとともに、重ねてお詫び申し上げます。

気がついたら会長になっていた

前回の原稿執筆時から長い時間を経て、モーニング本誌では、我らが島耕作は社長から会長に昇任。しかも、リアルな日本の家電メーカーでは、経営不振の責任を取って事実上引責の会長職等への就任が相次ぐ中、テコットの本業であるエレクトロニクス事業は国分社長に任せるもののグループ全体の経営と将来を考える実権を持った会長に! さすがは島耕作。ビジネス界の「のらくろ」は伊達じゃない。

この会長と社長の仕事の分担。単なる上下関係ではありません。更に言えば、国分社長の下にいるだろう多くの事業本部長達との関係も単純な上下関係ではない、あるいはそうあるべきではない、というのが経営学的な発想です。

会長、社長の役割は企業によって多少異なりますが、トップマネジメントの上下関係は、上下の命令系統であるだけでなく、仕事の質が異なっているのです。会長や社長がトップとして行わなければいけないことは、全社戦略。全社戦略とは経営戦略論と呼ばれる学問分野の領域そのもので、グループ全体の最適性を考えることです。

それに対して、実際の事業を統轄する役員(『会長 島耕作』の国分社長も含めて)は、担当する事業の事業戦略を担うという仕事の性質の違いがあります。一言でいえば、全社戦略(経営戦略)は前述のように全体最適であり、事業戦略とは個別最適である、ということができます。CEOとCOOの違いも同様です。

企業が大きくなれば、当然一人のトップで全ての事業の細部まで把握することはできません。そもそも、誰が何をやっているのかも分かりませんし、分からないのは人間の能力の限界から来るものです。以前、ある心理学者から聞いた話では、日常の仕事をしながら、直接的に記憶していられる知り合いの数はせいぜい百数十人だそうです。それ以上は、人間の脳の能力の限界で不可能なのだそうです(時間をかけて思い出すということはできるそうですが)。

なので、ドラマなどで見かける「君は、今度入社した○○くんだったね」と社長に呼びかけられて、この社長はすごい! という状況は、リアルなビジネスの現場であれば、(1)その社員がとてつもなく優秀か、あるいは相当な問題児でトップの間で既に話題になっていた、(2)社長は実は人間ではなかった、(3)社長は人の名前を覚えるくらいしか特技のない、経営者としては能力が足りないひとだった、のいずれかの可能性ぐらいしかないことになります。

もしそんな社長が現実にいたら(というかそういうトップを見たことがありますが・・・)、往々にして(3)であると思って良いでしょう。(2)であれば、宇宙人に連れ去られる前に会社を辞めるか、(1)で自身が優秀であるという自信がなければ、これまでの素行を振り返って問題がないか確認することをお勧めします。

この続きは、プレミアム会員になるとご覧いただけます。
現代ビジネスプレミアム会員になれば、
過去の記事がすべて読み放題!
無料1ヶ月お試しキャンペーン実施中
すでに会員の方はこちら