新聞、テレビ、雑誌から報道が消える日
ITジャーナリスト・佐々木俊尚インタビュー vol.2

vol.1 はこちらをご覧ください。

田原 出版の世界でも電子化、ネット化が進んでいます。特に話題になっているのは、アマゾンが出したキンドルという電子書籍です。すでにアメリカでは大ヒットしている。まだ日本語版はないですが、早晩出てくるでしょう。この流れはどう見ていますか。

佐々木 今年の末ぐらいに日本語版が出るという話もあるみたいですね。キンドルの出現で一番大きい変化は、セルフパブリッシング、つまり自費出版が簡単に出来るようになることなることなんです。
  自費出版というと、これまではアマチュアが高いカネを払ってやるというイメージですよね。でもキンドルの場合、キンドルストアという書籍を買うオンラインストアに、書き手が直接本を提供できる仕組みがあるんです。印刷や配本などの初期費用ゼロで、売れた分だけ、アマゾンと書き手の間で分配しましょうという仕組みです。
  そこでは、従来10%だった印税率が、キンドルストアでやれば印税率70%になる。
  恐らくそこにはアマチュアだけでなくプロの作家も入ってきます。ベストセラー作家ですでに十分自分の読者を抱えている書き手が「いまさら出版社にプロモーションしてもらわなくても構わない」と思うなら、直接キンドルストアに売っちゃえばいい。

田原 ぼくはキンドルが普及すると、日販やトーハンという書籍の取り次ぎ会社や全国の書店が困ると思っていた。それだけじゃなくて出版社も困るんだ。

佐々木 ものすごく困ります。

田原 出版社を経由する必要がないんですね。

佐々木 実際アメリカでは、サイモン&シェスターという出版社と契約し、長年そこから出版していたスティーブン・R・コヴィーというビジネスのベストセラー作家が行動を起こしました。
  『7つの習慣』という1000万部以上売れたビジネス書があるんですけど、その版権をサイモン&シェスターから引き剥がして、アマゾンに直接売るようにしちゃったんです。そのほうが印税率が高いからって。

田原 じゃあ出版社は・・・。

佐々木 ベストセラー作家なので文句言うわけにもいかない。しょうがないから黙っているしかない。
  そういう突出したベストセラー作家が「もうキンドルからしか出しません」と言った瞬間に、雪崩を打ってみなそっちに行っちゃうと思うんです。

田原 じゃあ講談社も困っちゃうじゃない。

佐々木 困りますよ。日本でもたとえば、村上春樹さんが「『1Q84』の第三弾を新潮社から出しません、キンドルから出します」と言った瞬間にみなキンドルを買いますよね。そうなった瞬間に、書き手もみんな雪崩を打ってそっちにいく。で、出版社の中抜きが一気に始まるわけです。

田原 本当に出版社は大変ですね。

週刊誌はどうすれば生き残れるのか?

佐々木 いままで出版業界も日本で電子書籍やろうとしてコンソーシアムを作って実験してきましたけど、必ずそこに日販やトーハン入っている。だから、「インターネット配信を止めて、書店に端末を置いてそこでダウンロードできるようにしましょう」というようなモデルが出来上がったりしちゃう。
  それはありえないですよ。しかし取り次ぎとか書店が入っていたら、そうせざるを得ないんです。

田原 キンドル日本語版が出たら、本を出したいという人にとっては非常に有利になりますね。だけど出版社はそれに対応するためにどうしたらいいんだろう。

佐々木 書籍だけで儲けるのではなくて、書き手の表現活動には講演とかテレビの出演とかというものもありますよね。そのマネージメントをするといった、いわゆるエージェント的な方向に行くのが一つですね。
  ただし、そうはいっても、現在の大手出版社のように社員を多数抱える体制では成り立ちません。もう少しスモールビジネス化して、少数精鋭の数人のチームと一人の書き手と組んでやっていくみたいな方向になる可能性は十分あると思う。

田原 現にこのウェブの『現代ビジネス』は編集者がやたらに少ない。『週刊現代』の何十分の一ですよ。

佐々木 ウェブというのはそれでも面白いものが作れるんですよ。

田原 それに対して『週刊現代』や『週刊ポスト』のような紙媒体はどう対抗すればいいんだろうか。

佐々木 みんながいまやろうとしているのは、ネットに進出して、ウェブで情報を流すっていうやり方です。しかし、それだと昔の紙媒体のように「何十万部×何百円」という大きな収益のモデルにはならない。

田原 僕が日経ビジネスオンラインに書いている連載記事にはアクセスが結構あるそうです。だけれど、そのウェブマガジンを出している出版社はそんなに儲かっていないという。ネットでどうやってカネを儲けるかっていうのは大変なことですよね。

佐々木 いや、簡単な話です。ウェブのメディアが儲かっていないわけじゃないです。

田原 そうなんですか。

佐々木 日本だと朝日新聞社の『AERA』や『週刊朝日』の編集長だった大森千明さんが始めた『J-CASTニュース』なんかは経営が成り立っているわけです。
  なんで成り立っているかというと、給料が安くて、少人数で、いろんなところにコストをかけていないから。だからネットの世界って損益分岐点をものすごく下げないといけない。下げればなんとかなるんです。

田原 つまりライターに対する原稿料を下げるということ?

佐々木 それより先に社員を減らすということだと思います。
  それに、あまりコンテンツの質が下がってしまうと困るので、優秀な書き手に対しては正当な対価を払う必要は出てくる。何でもかんでも下げればいいというものじゃない。

田原 じゃあ僕も要求しよう。高く払えって(笑)。

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