【有料会員限定記事】ポール・クルーグマン
ウォルマートの「見える手」~労働市場はほかの商品市場と同じではない

時間あたり10ドルの賃上げを発表したウォルマート---〔PHOTO〕gettyimages

賃上げはウォルマートの重要なメッセージ

数日前、アメリカ最大の雇用主であるウォルマートが50万人の従業員の賃上げを発表した。従業員の多くは昇給額はわずかであろう。だが、この発表が持つ意味はとてつもなく大きい。

理由は2つある。第一にその波及効果だ。ウォルマートは非常に大きな企業なので、これはほかの企業に雇用されている何百万人もの労働者の昇給につながるだろう。第二にウォルマートが私たちに伝えているメッセージだ。これは間違いなく第一の理由よりもはるかに重要だ。それはすなわち、低賃金とは政治的選択であり、それとは異なった選択が可能だし、またそうするべきだというメッセージである。

少し背景に触れよう。保守派の人々は、一般的に、労働力の需要・供給のメカニズムは、ほかの商品市場と同じものだとしている。ちなみに、これは多くの経済学者が支持する見解でもあると認めざるを得ない。いずれしても、保守派は、需要と供給の法則が賃金を決定するという見解を持っている。そして、この法則に逆らおうとする者は市場の「見えざる手」によって罰されると言う。

具体的に言うと、この主張は、賃金を押し上げようとすれば失敗するか、もしくは悪い結果になるということを示唆している。最低賃金を設定すると雇用が減り、余剰労働力が生まれるという主張だ。農産物の価格に最低額を設けようとすれば、バターの山ができたり、ワインの湖ができてしまうという状況と同じというわけだ。賃金を多く支払うよう雇用主に圧力をかけたり、労働者に対して組合の結成を推し進めたりすることも同じ効果をもたらすということになる。

しかし労働経済学者らは、長い間この見解を疑問視してきた。「ソイレント・グリーン(※)」、つまり労働力というのはヒトだ。実際に労働者は人間なのだから、賃金はバターの価格と同じではない。労働者がどれだけの賃金を得られるかについては、単純な需要と供給のみで決まるわけではない。それは、社会的要因や政治的な力にも同じくらい影響されるものだ。

(※)アメリカ映画(1973年)。近未来のニューヨークを舞台に、人肉からソイレント・グリーン(Soylent Green)という食品を作って人口過剰問題を解決しようとする陰謀を描くSFミステリー

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