奥田祥子『男性漂流』より【第4回】
~今の自分を変えて結婚したいのに、変われない木元さん~

【第3回】はこちらをご覧ください。

自分を変えたいのに、変われない

口下手で引っ込み思案、ある程度の収入や容姿など、女性が結婚相手に求める条件に達していないと本人が思い、「結婚できない」と自信を失くしている男性たちを取材する糸口をつかんだのが、2004年に開校した「花婿学校」(名古屋市)だった。

文字通り"花婿修業"をするための学校で、外見を改善するための服装選びや笑顔など豊かな表情のつくり方、女性との会話術、デートでの振る舞い方といったテクニックを学ぶ。今では結婚情報サービス会社や民間事業者が独身男性向けに「婚活」講座を開くケースが増えてきたが、あの頃は非常に珍しかった。

システム・エンジニア(SE)をしている木元良太さん(仮名・当時34歳)とは2006年夏、名古屋市内で開かれた花婿学校の単発講座で知り合った。

「皆さん、逃げないで厳しい現実をもっとちゃんと見てください。そして、女性に選ばれるために、必死に自分を変える努力をしないとダメですよ!」

そう大きな声を張り上げ、活を入れる講師の大橋清朗代表の話に、受講生の多くが気後れした様子を見せるなかで、真剣な表情で聞き入り、大学受験を間近に控えた高校生のように懸命に一字一句、ノートに書き留めていた木元さんの姿が、とても印象的だった。

しかし、一回の休憩を挟んで4時間にわたる講座が終わると、木元さんはどこか冴えない面持ちになっていた。身長160センチ台前半で太り気味の体型に、襟元にしわのよった半そでシャツ、ジーンズ姿。帰り支度をして立ち上がった彼に後ろから「どうでしたか?」と感想を求めると、ちらっと振り返ったものの目も合わせずに、逃げるようにその場を後にしてしまった。その後も「花婿学校」を取材するたびに彼が来ていないか確認したのだが、会えることはなかった。

ところが、最初に見かけてから1年半近く過ぎた2007年冬、東京都心で開かれた「結婚」をテーマにした講演会の会場で、木元さんとばったり出くわすのである。講演会が終わって会場を出ようとした時、5メートルほど離れた出口付近にいた木元さんと目が合い、こちらから近づいていった。木元さんも私のことを覚えていてくれたようで、以前のように立ち去ろうとする様子は見せなかった。
 

男性漂流 男たちは何におびえているか』
著者= 奥田祥子
講談社+α新書 / 定価950円(税込み)

◎内容紹介◎

語られざる男性たちの苦悩を描いて、ベストセラーになった前著『男はつらいらしい』(新潮新書)。男たちはさらに歳を重ね、結婚、育児、介護、自らの老い、そして仕事に葛藤していた---。ジェンダー論、フェミニズム論のような一面的な「男社会」論からはこぼれ落ちてしまう中年男性たちの悲哀と苦悩。10年にわたる取材を通して浮かび上がる、決して予定通りにはいかない人生の難しさ。少子高齢化、未婚社会、介護離職、老後破産・・・取材対象者の姿を通して見えてくるのは、日本社会がリアルに抱えるリスクの実態だった!

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