奥田祥子『男性漂流』より【第3回】
~結婚情報サービスを退会して運命の人と出会った津村さん~

【第2回】はこちらをご覧ください。

「生涯未婚」大きなお世話!

2008年初夏に津村さんに会って以降、「はじめに」で触れたように私自身の職場や家庭の事情によって、彼への次の接触までに4年間の空白が空いてしまう。2012年の春、私は勇気を振り絞って津村さんの携帯に電話を入れた。

「おー、生きてたの」

悪ぶった口調は変わらない。が、久しぶりに聞くその声は以前よりも落ち着いている。どこか懐かしい香りがした。

「あのー、その後、【あちら】のほうはどうですか?」

「奥田さんらしくないじゃない。はっきり聞けばいいのに。『婚活』なら、とっくにやめたよ」

「ぜひ取材させてください」

思うよりも先に、言葉が出ていた。

50歳になったばかりの津村さんと会ったのは、それから1週間後だった。銀座の喫茶室に現れた彼の服装は、白シャツに黒のカーディガン、紺のスラックス。以前は真っ黒だった髪の毛は、ロマンスグレーに変わり、表情も含めた外見全体に穏やかな雰囲気が漂っていた。高級ブランド服を身にまとっていたかつての姿は、もうどこにもなかった。

まずは世間話を振ろうとすると、間髪を容れずに津村さんのほうから話し始めた。

「実は、ちょっと問題を起こしちゃってね。あの結婚情報サービスで・・・」

彼の説明の概略は、こうだ。

結婚情報サービスに入会してから1年余りが過ぎた2008年末から2009年の初めにかけ、津村さんは見合いを申し込んで断られた同じ女性に何度も申し込んだり、相手から申し込まれて断った女性に今度は自分から申し込んだり、サービスの規約違反にあたることを行い、会社側からの警告にも応じず行為を続けたため、退会に追い込まれたという。
 

男性漂流 男たちは何におびえているか』
著者= 奥田祥子
講談社+α新書 / 定価950円(税込み)

◎内容紹介◎

語られざる男性たちの苦悩を描いて、ベストセラーになった前著『男はつらいらしい』(新潮新書)。男たちはさらに歳を重ね、結婚、育児、介護、自らの老い、そして仕事に葛藤していた---。ジェンダー論、フェミニズム論のような一面的な「男社会」論からはこぼれ落ちてしまう中年男性たちの悲哀と苦悩。10年にわたる取材を通して浮かび上がる、決して予定通りにはいかない人生の難しさ。少子高齢化、未婚社会、介護離職、老後破産・・・取材対象者の姿を通して見えてくるのは、日本社会がリアルに抱えるリスクの実態だった!

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