自衛隊の海外派遣にメンツをかける安倍政権と外務省

佐藤優直伝「インテリジェンスの教室」Vol.055 文化放送「くにまるジャパン」発言録より

本コーナーは、佐藤優さんが毎月第1・第3・第5金曜日に出演している文化放送「くにまるジャパン」での発言を紹介します。今回は2月20日放送分をお届けします。なお、ラジオでの発言を文字にするにあたり、読みやすいように修整を加えている部分もあります。野村邦丸(のむら・くにまる)氏は番組パーソナリティ、伊藤佳子(いとう・よしこ)氏は金曜日担当のパートナーです。

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〔PHOTO〕gettyimages

伊藤: 政府は国際紛争の際に展開する他国の軍隊の後方支援などに自衛隊をいつでも海外派遣できるようにする恒久的な法律の概要をまとめました。政府関係者が明らかにしたもので、今日以降、新たな安全保障法制をめぐる与党協議で正式に提示されます。

この法律の概要は、国連安全保障理事会の決議に基づかずに武力行使する有志国連合の支援をできるようにすることや、武器や弾薬の提供を新たに認めることを主な内容としています。ただ、公明党内には、自衛隊が後方支援活動をする場合は国連決議が出ていることを要件にすべきだという意見があり、議論の焦点になりそうです。

安倍政権の幹部は、「武力行使を認める国連決議の例が少なく、決議を派遣の要件とすれば、自衛隊活動への制約が大きいと判断した」と説明しています。

邦丸: また、今日の朝日新聞の1面で伝えていますが、「周辺事態法」という法律がありますが、この日本周辺の有事を想定したアメリカ軍への後方支援を定めたものから、「周辺」という事実上の地理的な制約をなくして、アメリカ軍やそれ以外の他国軍への支援を海外で展開できるようにする抜本的な改革案を連立与党である公明党に示したということで、これは昨年の閣議決定以来、集団的自衛権の行使の解釈変更、新三要件とかいろいろあるなかで、与党内、一応決着は見えたものの、解釈については、これは自民と公明とではずいぶん隔たりがあるんですよね。

佐藤: だいぶ隔たりがあるんですけれど、自民党と公明党の論理を見ていると、自民党が感情論、印象論なのに対して、公明党は理屈を徹底的に攻めていく感じですから、理詰めで争うと公明党が勝つ。どうしてかというと、内閣法制局が公明党の側に立つから。

邦丸: ははあ。

佐藤: ところが、何でもいいから出しちゃいたい、自衛隊を出したほうが日米関係がよくなる、というのが外務省なんですよ。ですから、外務省と内閣法制局の代理戦争の面がありますね。

邦丸: はあ~~。

佐藤: 政治家は「やりたい」ということがあるんだけれど、緻密な論理の組み立てとなると、特に自民党や民主党の政治家ってあまり得意ではないんですよ。公明党の場合は、安全保障とか社会福祉とか彼らがポイントとしていることに関しては、ものすごく強いんですよね。特に山口那津男代表は強いから、論戦においては公明党が優勢になると思うんです。しかし、いざ「やる」ということになったら、論理的に正しいほうが勝つとは限らないです。

そうすると、何が重要かというと、安倍さんや菅さんは周辺以外のどこに自衛隊を出したいと考えているのかということです。朝鮮半島有事、あるいは尖閣で何かあったときは、やはり自衛隊はいろいろな動きをしなくてはいけないということは、たぶん95%ぐらいの国民のコンセンサスが取れているんじゃないかと思うんですよ。

安倍さんや菅さんが考えているのは、中東だと思うんです。中東に関しては、私は分けて考えないといけないと思うんです。テロ対策に関してはいろいろな国際協力をしないといけないんだけれど、それ以外のいろいろな中東諸国の紛争に関して日本がどこまで入ったらいいかというのは、別の話だと思うんですよ。

これからテロというのは国内、国外は関係なくなってくる。テロ対策のきちんとした法律の整備をする形で、そのなかで自衛隊をどう位置付けるかという方向で整理し直したほうがいいと思うんですよ。

邦丸: 今、伊藤佳子アナが伝えてくれましたニュースのなかにも、国連決議に基づいての武力行使というのはほとんどないので、その辺は国連決議云々ということは気にする必要ないじゃないかというのが政府関係者の話だということなんですが、でも実際にこのタガがはずれたことによって、どういうことになるんですか。

佐藤: たとえば、ウクライナ紛争でアメリカが有志連合を出そうということになったら、ドイツは行かないでしょうけれど、仮にイギリスが行くということになったとしたら、米英がやるから、日本も日米同盟が大切だからウクライナの後方支援をしてくれというような状況になった場合、日本は行くのか、ということですよね。そうしたら、北方領土交渉はどうなるのか。日露戦争でもするつもりなのかということになる。

邦丸: ふむ。

佐藤: あるいは、何度も言っているように、ホルムズ海峡に機雷が敷設されるというのは、オマーンの領海内が国際航路帯ですから、そこに機雷が置かれるということは、置くのはイランですから、イランがオマーンに宣戦を布告するということになるんです。国際法では、領海内に機雷を置くのはそういう意味になります。そうすると、イラン・オマーン戦争が始まったときに、日本はオマーン側で参戦するのか。

邦丸: ふーむ。

佐藤: ですから、こういう国家間で起きる紛争と、アルカイダやイスラム国のような国境など関係ない国際テロ組織との戦いで中東で展開するというのは、意味が違うと思うんですね。

邦丸: うむ。

佐藤: だから、今政府でやっている審議のそもそもの枠組みが、日本の安全保障をテロとの関係で考えるうえで、ぜんぜん対応していないように思うんです。

邦丸: それをわかっていてやっているんですか。

佐藤: わかっていないと思う。

邦丸: わかっていない!

佐藤: メンツだと思う。

邦丸: メンツ?

佐藤: ちょっと前回(集団的自衛権の行使を認める憲法解釈の変更の閣議決定)は公明党にやられ過ぎたな、よーく見てみたら、この閣議決定は抑えこまれているじゃないか、おもしろくねえな、選挙でも勝ったことだしな、この辺で一発やりたいようにやってやろう、誰が主人かというのを見せてやろう――こんなところじゃないかと思うんですね。

あんまり難しいことは考えていないと思います。でも、その後ろには外務省がいて、第1次湾岸戦争のときはおカネだけ出して日本は貢献しないと言われ、外交官として肩身が狭かったもん、ああいう肩身の狭い思いはもうしたくないから、自衛隊をどこにでも出せるように――。

邦丸: でもそれは外務省の論理ですよね。

佐藤: そうですよ。防衛省は、実は消極的ですよ。実際の戦場に行くっていうことですから、命を懸けて行くわけですから。それと同時に、訴訟を抱える可能性だってありますからね。隊員のなかで「行きたくない。これは憲法に違反していると思う」と、訴訟でも起こされた日には、これは大変面倒臭いことになるので。

ですからもし、そこまでやりたいのだったら、憲法を改正するというのがスジですよ。

邦丸: ちゃんと国民投票をやってね。

佐藤: 国民のコンセンサスがあるということで、自衛隊を全世界で展開させたいということだったら、私は憲法改正で国民の意思を問うということが先行すべきだと思いますけどね。

いずれにせよ、テロの問題についてはやらないといけない。しかし、こういう枠組みで本当にテロを阻止できるのか。逆に、テロの問題だったら国連決議が出ますからね。ロシア、中国をはじめとして、イスラム国のテロを阻止するということで基本方針は一致しているので。世界中全体が「やる」という決議があるというときに出て行くというほうが、これは国際社会の納得が得やすいと思うんですね。・・・(以下略)

佐藤優直伝「インテリジェンスの教室」Vol.055(2015年2月25日配信)より