雑誌
有力企業「のるか、そるか」の大買収、その意味 「会社の存亡」をかけた決断をなぜしたのか
いま、この国の経済が大きく変わろうとしている
CITICへの出資を発表する伊藤忠・岡藤社長〔PHOTO〕gettyimages

「二度とやりたくない」けれど

「大型の投資案件が進められているという話は、社内でも噂になっていたのですが、これほどの規模だとは誰も想像していなかったので、社内では衝撃が走りました」

こう語るのは、北米に駐在する伊藤忠商事の社員。大型の投資案件とは、中国中信集団(CITIC)への出資のことだ。

伊藤忠は今年1月20日、タイの最大財閥チャロン・ポカパン(CP)グループと共同で、中国最大の国有複合企業、CITICの傘下企業に1兆2040億円を出資すると発表した。折半の出資なので、伊藤忠が負担する額は約6000億円。日本企業の対中国投資としては過去最高額だ。

伊藤忠は大手商社のうち三菱商事、三井物産に次ぐ3番手。資源に強い上位2社と違って、繊維・食品など非資源分野でナンバーワンを目指すという大きな目標に向かって大博打に出た。

「社内の調整もあるし、針の穴に象の足を3本突っ込むみたいなもんや。もう二度とやりたくないわ」

伊藤忠の岡藤正広社長は経済誌のインタビューで、今回の資本提携をふり返って、このように語っている。長くタフな交渉のストレスが心臓に来て、2回も検査を受けたというから、会社の存亡をかけた「のるか、そるか」の大勝負である。

「岡藤社長は住友商事の後塵を拝して万年4位だった伊藤忠を『3位にする』と言って、有言実行した実力者。今回の投資で本当に業界1位を狙えるかもしれないという空気が社内でも生まれてきました。一方で、CITICがかなりの不良債権を抱えているのではないかという不安の声も聞こえてきます」(前出の社員)

伊藤忠以外にも、海外における日本企業の投資は活発化している。2月10日にはキヤノンが監視カメラ世界首位であるスウェーデンのアクシス社を買収すると明らかにした。投資額はキヤノンの連結純利益2500億円('14年度)を上回る約3337億円で、同社としては過去最大の買収規模となる。一眼レフなどのデジタルカメラ市場が縮小するなか、今後ますます進むと見られる監視社会化の波にうまく乗ろうというわけだ。

また、2月24日には日立製作所がイタリアの航空・防衛大手フィンメカニカ傘下の鉄道車両、信号メーカー2社を計約2500億円で買収することがわかった。これも日立にとって過去最大規模の買収額で、同社の'14年度純利益に相当する。鉄道のような交通インフラは、家電などと違って参入障壁が高く、安定的な収入を見込める。

経済ジャーナリストの松崎隆司氏は語る。

「M&A情報を提供するレコフ社の調査によると、'14年に日本企業が海外で行った買収案件は557件に上り、過去最高になりました。

海外でのM&Aが増えている一つの要因は、国内市場が明らかにシュリンクしてきているので次の戦略として外に出ていくしかないということ。そして、'13年度の日本企業の内部留保は約320兆円もあり、買収のための資金が豊富であることも追い風になっている」

サントリーは昨年、米国のビーム社を1兆6500億円で買収し、大きな話題を呼んだ。

「ジムビームの名を知らない欧米人はほとんどいませんが、サントリーのことを知っているのは一部の愛好家だけです。今後、サントリーはビームの販売網を使って、ジャパニーズ・ウィスキーを世界に広めていく戦略に出るでしょう。新浪剛史社長はブラウンスピリッツ(ウィスキー類)で、世界一を目指すと明言しています」(経済ジャーナリストの永井隆氏)

この続きは、プレミアム会員になるとご覧いただけます。
現代ビジネスプレミアム会員になれば、
過去の記事がすべて読み放題!
無料1ヶ月お試しキャンペーン実施中
すでに会員の方はこちら