引き下げ決定で波紋広がる
「施設から在宅へ」移行促進 事業者の経営不安も[介護報酬]

入居者の世話をする介護職員=神奈川県大和市で2月2日

介護報酬の改定率を引き下げて、サービスの質は保てるのか――。2月にまとまった介護サービスの公定価格となる2015~17年度の「介護報酬改定」が波紋を広げている。訪問介護や「みとり」を充実する事業者への報酬を厚くして「施設から在宅へ」の移行を促す半面、利益率が大きいとされる特別養護老人ホーム(特養)やデイサービス(通所介護)の事業者には大幅な基本料引き下げを決めた。人材不足改善に向けて、介護職員給与を月額1万2000円上積みするが、現場からはそもそも経営自体が赤字に陥る可能性もあるとの懸念の声が出ている。

特養や訪問介護など介護サービスごとの基本料などが公定価格で決まる介護報酬は、原則3年に1度改定される。年明けの15年度予算編成過程でサービス単価を平均2・27%減と06年以来9年ぶりの引き下げが決まっていたため、2月6日の配分決定では、ほぼ全てのサービスで基本料が削減された。特に特養は平均6%弱の削減。みとりや認知症対策に取り組み加算を算定できなければ減収は避けられない仕組みだ。

介護報酬は09年度以降、介護職員の賃金改善を踏まえてプラス改定が続いていた。全国老人福祉施設協議会(老施協)は改定後に見解を表明し、特養の人件費比率は平均63・7%にも及び、報酬減で人件費抑制やサービスの質や量の低下の懸念があるとして、「6割の特養ホームが赤字に転落する」と強調。「負のスパイラルを生み出した歴史的改悪となる」と強く厚生労働省を批判した。

だが、今回は改定論議の早い段階からマイナス改定の流れが固まっていたのが実情だ。

口火を切ったのは、毎年1兆円規模で増える社会保障費の伸びの抑制を図りたい財務省だ。現在の介護費は約10兆円だが、団塊世代が全員75歳以上になる25年度には20兆円超まで膨らむ見込み。その中で、国・地方の税金と40歳以上の保険料や利用者負担(原則1割)で賄われる介護報酬は、1%カットで税金約520億円が浮かせられ、国民負担も軽減できる。

財務省は昨年10月、「特養は平均8・7%の収支差率を上げ、中小企業の2・2%を上回っている」などとして、過去最大の3%程度の大幅削減を迫った。特養など主な運営主体である社会福祉法人を狙い撃ちし、1施設当たり約2億円弱の内部留保があると「もうけ過ぎ」を指摘した。

厚労省も経営難やサービス低下の懸念から反論したが、処遇改善に充てられるはずだった消費税10%財源が増税延期でなくなったことや、介護費適正化の必要性などからもプラス改定までは困難と判断。焦点は早々とマイナス幅のせめぎ合いに移った。

全体の改定率2・27%減

ただ、03年の2・3%減を上回る「過去最大のマイナス幅」となると福祉軽視とのメッセージと受け取られ、春の統一地方選に悪影響が出かねない。最後は官邸が財務・厚労両省の仲介に乗り出し、政治的リスクを回避するギリギリの2・27%減で決着させていた。

その結果、ほぼ全ての介護サービスで基本料がカットされる報酬配分が決定。特に基本料が平均6%弱も削減される特養では、1部屋4人の相部屋では住民税課税世帯の入居者には8月から室料分の1日470円(月1万4100円)が自己負担で求められる。同時に事業者報酬もその分5%程度切り込まれる。日帰り入浴などをする通所介護でも、利用者300人以下の「小規模事業所」ではサービス料が割高だった実態を踏まえて10%弱も減る。

他方、4月から特養入居が原則要介護3以上の中重度者に限られることも踏まえ、「施設から在宅へ」の誘導は強化する改定だ。

例えば、訪問介護では、中重度者を積極的に受け入れて基準以上の職員配置なら事業所報酬を上増す。24時間体制の小規模多機能型居宅介護では、死期が近い人のケアをする「みとり介護」体制を評価する加算も新設した。特に、ホームヘルパーらが24時間いつでも自宅に駆けつける「定期巡回・随時対応サービス」では、在宅介護を推し進める12年改定の目玉とされながら参入が伸び悩んでいた。しかし、今回は高齢者が利用可能な介護保険限度額を減らせる加算の仕組みを作り、算定しやすくした。

とは言え、難題は人材不足が深刻な介護職員の賃金アップなど処遇改善への対応だ。

高齢化により、25年度に必要とされる介護職員は約250万人で、現状では約30万人が不足すると見られている。政府は09年度以降の措置で月3万円上積みできたと語るが、介護職員賃金は平均月額約22万円で、全産業平均(13年時、32万4000円)の7割未満と低水準にとどまる。厚労省は今回、「処遇改善加算」の上乗せ評価を新設し、算定すれば月1万2000円アップできるよう別枠で手を打った。賃金改善計画の提出や実績報告などで実効性も担保すると強調する。

しかし、加算対象は介護職員のみで、看護職員やケアマネジャーなどの賃上げには別途対応が必要となる。老施協は今回の改定で、1施設当たり平均で年間約1500万円の減収にも達すると試算。厚労省は、みとりや認知症加算など各種上積みされた加算を算定すれば減収分の補塡は可能とみるが、すべての施設が対応できるとは限らないのが実態だ。

介護業界の強い反発に、与党の厚労関係議員は「まずは改定が現場認識と合っているか見極める」と検証の必要性を語るが、「みとりやリハビリなど、現場の意識改革を促す改定でもある」との認識も持ち合わす。「理事長が黒塗りの高級車に乗っている」など批判を受ける特養もあった介護業界。神奈川県のある社会福祉法人の理事長は「各経営者が努力しないと、業界全体がそっぽを向かれてしまう」と危機感を口にする。介護業界の一層の自助努力もまた求められている。



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