わが子をオックスブリッジに留学させたい? 子どもの可能性と現実、「Quality of Life」を考えて
親として振り返るオックスブリッジ体験Ⅱ
Cambridge Judge Business School。外観・内観ともにカラフルな校舎で、そこに集う教員も学生たちもバラエティに富む。ケンブリッジの人種・文化のルツボぶりを象徴する建物だ。出典:Rept0n1x

はじめに

グローバル化が叫ばれて久しい昨今、わが子を海外へ留学させたい親御さんもいるだろう。本稿では、私自身のケンブリッジMBA留学体験や、知人・友人の海外留学の実例に基づき、中長期のキャリア形成などに及ぼす影響を紹介する。そのうえで、私自身も6歳の男の子の父親である立場から、わが子の海外留学の「意味」や、留学を検討するに当たっての留意点(学部留学か大学院留学か)、自らが経験したオックスブリッジの魅力を考察していきたい。

ケンブリッジ体験

ミレニアムを目前に控えた1999年夏、ケンブリッジの地に降り立った。そこで目にした歴史・伝統溢れる美しい(英語で、lovely な)学園都市の光景に心がたかぶった。その記憶はいまも鮮明に蘇える。海外経験の乏しい30代の企業派遣MBA留学。異文化環境で苦労しつつ何とか学位取得にこぎ着けたが、心身ともに相当なエネルギーを費やしたため、もっと若いうちに留学しておくべきだったと感じた。

学んだことは陳腐化し、語学も使わなければ衰える。それでもなお、ケンブリッジで育み得た、奮闘のすえ学位取得できた達成感や、ともに学んだ仲間とのネットワーク、文化や価値観の多様性に対する受容力や語学含む異文化コミュニケーション力、さらに異文化を知ってこそ体感できる、日本の文化や歴史・伝統などについての再発見は、今も時を超えて残る。

遥かケンブリッジの地で、小難しい理屈を学んだことは、すっかり昔話となった。でも、時を重ねて不確かになる記憶の数々をふるいにかけるとキラリと輝く、美しいケンブリッジの街並みとそこでの出来事や、ともに奮闘した学友たちと過ごした濃厚な時間が思い出される。

海外留学とキャリア形成

そんな私自身のケンブリッジ体験を振り返りながら、海外MBA留学経験ある友人・知人たちの、十数年に及ぶキャリアの足跡を辿ってみると、二つの類型がありそうだ。一つは伝統的日本企業から派遣留学し、派遣元などに戻るケース。もう一つは派遣や私費で留学し、外資系やITベンチャーなど新世界に挑むケースだ。

前者では多くの場合、留学とその後のキャリア形成に直接的な関連は弱く、留学経験より他要素が主な決定要因となっている。伝統的日本企業は、留学経験を短期・直接に業務に還元してもらう姿勢より、中長期の人材育成方針のもと、数年毎に繰り返される人事異動先の一つと扱う姿勢が強いのだろう。

大手邦銀役員(人事部門、留学の経験者)と話をした際、留学制度が話題になったが、その方は留学後一度も外国語を使う国際業務に携わる機会がなかったそうだ。人事当局の目線も、留学後に辞める中堅・若手がいて、派遣留学制度の有用性を憂慮している様子もうかがわれた。こうした考えは、伝統的日本企業で根強いかもしれない。

後者では業種や職種で濃淡あるが、留学とその後のキャリア形成に直接的な関連がありそうだ。実例として、日系通信事業者からの派遣留学後、米系投資銀行や仏系ブランド企業、日系ITベンチャーに転じた者、日系総合商社からの派遣留学後、米系IT物流業に転じた者、米系コンサルティング・ファーム勤務後に私費留学し、日系ベンチャー・キャピタルに転じた者、ビジネス経験を活かし経営学を研究する学者に転じた者などを知る。総じて「留学」がなければ現実に起きなかったキャリア・チェンジだ。

語学や異文化順応力、起業家精神(外資系企業の日本拠点なら、即戦力として日本に根を張った学歴・職歴や人脈)、本国幹部とのコミュニケーションや内外人脈、場数を踏んだ経験値などが評価されるのだろう。留学者も、培った語学や専門知識は有用だが、それ以上に意識面で、新たな可能性にチャレンジする級友らに触発され、思い切って古巣を飛び出そうとの意欲や期待が膨らみ、重大な決断のきっかけを「留学」がもたらしたのは間違いない。「可能性」が「現実」に転化した瞬間だ。