佐藤優がインテリジェンス機関の元幹部から得た「中東情勢に関する専門家の見方」

佐藤直伝「インテリジェンスの教室」Vol.055 インテリジェンス・レポートより

【はじめに】

今月中旬、中東から友人がやってきたので、「イスラム国」をめぐる状況について、かなり踏み込んだ意見交換を行いました。とても有意義だったので、その結果を分析メモにまとめておきました。

インテリジェエンス機関は、互いに情報を紙にして交換することがあります。そういうときには、情報源の氏名や情報入手日は記しません。(以下略)

* * *

 情報源:インテリジェンス機関の元幹部
 信頼度:信頼できる
 情報入手時期:2015年2月中旬

【コメント】
1.
ISILについて、正確で詳細な情報を持っている国家は一つもない。なぜなら、ISILが通常の国家のような組織形態をとっていないからである。指揮命令系統や通信手段も、通常の国家とはまったく異なる。従って、盗聴、通信傍受などのシギント(SIGINT=信号情報を用いたインテリジェンス活動)をいくら積み重ねても、ISILの実態をつかむことができない。ISILは、NSA(米国家安全保障局)などのシギント活動を織り込んだうえで欺瞞工作を行うので、通信傍受の内容を額面どおりに受け止めることは危険である。

アメリカ国旗に顔を覆われたフセイン象---〔PHOTO〕gettyimages

2.―(1)
ISILについては、イスラム内部に抗争があるという点を最も重視すべきだ。ISILの台頭によって、スンニ派とシーア派の対立が急速に増している。この原因の一つは、米国による稚拙なイラク工作だ。サダム・フセイン政権は、スンニ派を基盤にしていた。米国は「敵の敵は味方である」という単純な論理で、フセイン政権を打倒した後の統治で、シーア派優遇策を取った。その結果生じた混乱が、ISILに付け入る隙を与えてしまった。


2.―(2)
ISILにとっての第一義的な敵は、米国でもイスラエルでもない。12イマーム派のシーア派が支配するイランが、ISILの打倒対象である。ISILが考えるカリフ帝国(イスラム帝国)の建設の障害となっているのが、シーア派国家であるイランだ。イランの壊滅をISILは本気で考えている。

2.―(3)
米国とイランの利益は、ISILを壊滅する必要があるということで一致している。現状では、欧米、イラン、アラブ穏健派諸国のユニークな連合ができつつある。それだけISILの存在が危険であるということだ。

3.―(1)
シリア国家は事実上、存在していない。アサド政権は首都のダマスカスと、アラウィー派(一般にシーア派とされているが、実際はイスラム教に輪廻転生説、キリスト教の教義を一部なども入った土着宗教)が土着しているシリア北西部の一部地域しか実効支配できていない。アラウィー派は孤立しており、現在の支配地域を維持する以上のことは考えていない。

3.―(2)
ゴラン高原の情勢は安定している。イスラエルとシリアのアサド政権は、双方が相手の行動様式を熟知している。イスラエルは、ゴラン高原がアサド政権の統治下にある現状であれば、勢力均衡が崩れ、武力衝突に発展する危険性はないと認識している。イスラエルの本音は、アサド政権が現在の形態で継続することを望んでいるのである。

ヒズボラの幹部ハッサン・ナスララ氏---〔PHOTO〕gettyimages

3.―(3)
シリアでアサド政権が弱体化したことにより、勢力を伸張させているのはISILだけではない。レバノンの12イマーム派のシーア派武装組織である「ヒズボラ」も勢力を急速に伸張させている。イランはヒズボラを支援している。ヒズボラがイスラエルに対する攻撃を強める可能性がある。

4.―(1)
イランは、核開発を絶対に放棄しない。イランの保守派だけでなく、改革派もイランが核保有国になる必要があると考えている。それは、イランが核開発を行う動機が、イスラム国家として核を持ちたいという宗教的動機だけでなく、21世紀にペルシア帝国を回復したいという民族主義的要因もあるからだ。米国がイランに対する制裁を緩めると、イランは核開発を加速させる。・・・(以下略)

佐藤優直伝「インテリジェンスの教室」Vol.055(2015年2月25日配信)より

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