停戦合意は実現されず。戦闘止まず危機に瀕するウクライナ問題
佐藤直伝「インテリジェンスの教室」Vol.055 インテリジェンス・レポートより
〔PHOTO〕gettyimages

ウクライナ停戦合意と『イスラム国』

【事実関係】
2月12日、ベラルーシの首都ミンスクで、ロシア、ウクライナ、全欧安保協力機構(OSCE)、ウクライナ東部を実効支配する親露派の代表が、同月15日午前零時に発効する停戦合意に署名した。

【コメント】
2.―(1)
2月15日午前零時の停戦協定発効後も、ウクライナ東部地域での戦闘は止まず、停戦合意は危機に瀕している。本件については、欧米は親露派武装勢力に影響を行使しないロシアを非難し、ロシアは欧米がウクライナ寄りであると非難する。

筆者は両陣営が発信する情報を注意深く読んでいるが、激しいプロパガンダ戦が展開されているために、今回の停戦合意が実現されない責任がどちら側にあるのかよくわからない。

2.―(2)
ウクライナの民族主義者が停戦合意に激しく反発していることは間違いない。

<「親ロシアのテロリストとの合意は憲法に反し、法的効力を持たない。ロシアに占領された土地を完全に解放するまで戦闘を続ける」。ウクライナの極右連合「右派セクター」代表で、昨年10月の選挙で最高会議(国会)議員となったヤロシ氏は13日、フェイスブックにこう書き込んだ。ヤロシ氏は、ウクライナ政府軍から停戦や重火器撤去の命令が来ても応じない考えを示している。

右派セクターは昨年2月にヤヌコビッチ前大統領を追放した政変で重要な役割を果たし、親露派と対峙(たいじ)する東部に現在も戦闘員を多数派遣している。>(2月14日
毎日新聞電子版より)。

ウクライナ東部の交通の要衝デバリツェボなどで停戦合意後も激戦が続いたことに対する責任は、親露派武装勢力だけでなくウクライナ側にもある。もっともポロシェンコ大統領は現実的な判断をした。

<ウクライナのポロシェンコ大統領は18日、親ロシア派武装勢力との戦闘が続いていた東部の要衝デバリツェボから政権側部隊が撤退を開始したことを明らかにした。15日に停戦合意が発効したものの、親露派はデバリツェボで政権側部隊の数千人を包囲して攻撃し、事実上陥落した。ロシアの軍事支援を疑われる親露派が停戦違反によって支配領域を拡大したことで、和平合意は履行の初期段階で破綻の危機にひんした形だ。

デバリツェボは、ロシアやウクライナの主要都市を結ぶ鉄道が交差し、東部2州の親露派支配地域を結ぶ幹線道路も通る重要都市。親露派地域に食い込む形で位置するため、同派にとっては軍事上の弱点ともみられていた。親露派は「包囲された領域は停戦ラインに当たらない」と主張し、15日以降も政権側への激しい攻撃を続けていた。

(中略)デバリツェボをめぐり、ロシアのプーチン大統領は17日、訪問先のハンガリーでウクライナ軍は投降すべきだと発言し、物議を醸していた。>(2月18日 産経ニュースより)

2.―(3)
米国は、ウクライナの親露派武装勢力とロシアは一体であると見ている。従って、ロシアのプーチン大統領が明示的な指示を与えれば、親露派武装勢力の武力行使は止まると見ている。

しかし、ロシアと親露派武装勢力の関係は、それほど単純ではない。ここで鍵を握るのはGRU(ロシア軍参謀本部諜報総局)だ。GRUは武器販売にも従事しており、簿外のプール金を大量に持っている。GRUの現役だけでなく、OBにも独自のネットワークがある。ソ連時代、GRUはソ連共産党中央委員会の完全な統制下にあった。しかし、ソ連崩壊後、GRUは大統領府や政府の統制に必ずしも従わない事例が出てきた。チェチェンやモルドバの沿ドニエステル地区の武力衝突が悪化した背景にも、GRUの独自活動がある。

2.―(4)
ウクライナの親露派武装勢力は、そもそも義勇軍なので、ロシア軍の指揮命令系統に属していない。さらにGRUの現役とOBが自発的に親露派武装勢力に協力している。親露派武装勢力は「関東軍」化しており、幹部にプーチン大統領の指示に従わない分子がいるので、ロシアの影響力行使に限界があると筆者は見ている。

もっとも、東部の交通の要衝であるデバリツェボでの戦いが終結すれば、ウクライナ政府軍と親露派武装勢力の均衡がとりあえずは達成される。この時点で本格的な停戦を実現することは可能だ。この機会を逸すると、ウクライナ東部の内戦は長期化することになる。・・・(以下略)

佐藤優直伝「インテリジェンスの教室」Vol.055(2015年2月25日配信)より

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