南アフリカとアパルトヘイト
『週刊現代』官々愕々より
〔PHOTO〕gettyimages

2月11日付産経新聞に掲載された「労働力不足と移民」と題したコラム。作家の曽野綾子氏は、介護の労働移民についての受け入れを提示したうえで、南アフリカで人種差別撤廃後でも生活習慣などの違いから、黒人が入ってきたマンションから白人が逃げ出した例を挙げて、日本人と移民とは、「居住だけは別にした方がいい」と述べた。これが、人種差別・アパルトヘイト(南アで行われていた人種隔離政策)を称揚したという国際的な批判を呼んでいる。

曽野氏は、20~30年前の南アの実情を見てそう思うようになったという。

私もその頃南アに3年間住んでいた。後に大統領になるネルソン・マンデラ氏が27年間の投獄生活から解放された前後のことだ。

当時は、アパルトヘイト撤廃前夜。インフラが整い豪邸が並ぶ白人居住区の一角には、一部の裕福な黒人が、何の問題も起こさず居住していた。他方、都心部には一般の黒人が流入し、生活レベルや習慣の違いなどから白人が逃げ出してスラム化する例もあった。

一方、SOWETOなどの黒人居住区は、劣悪な居住環境だが、一部には黒人富裕層が豪邸を建てているケースもあった。黒人居住区に通った私がそこで感じたのは、白人も黒人もないということだ。黒人居住区の犯罪発生率は高く、出会う人々の多くは教養や知識のレベルは低かった。しかし、黒人でも、高等教育を受けた人々は、知的で社会的使命感も非常に高く、人間的にも尊敬できるというケースがほとんどだった。

そこにある偏見と抑圧の連鎖を生むのは、肌の色でも民族の違いでもない。その原因は、貧困と教育の欠如であることは明らかだった。世界中がその元凶である白人政権に対して憤り、懸命に生きる黒人たちに同情し、共感した。私も自然と黒人居住区での支援活動に駆り立てられた。黒人と白人が別々に暮らすべきだなどという考えは微塵も浮かばない。それは、南アに関与した人々に共通の感情である。曽野氏のコラムが世界中に非難されるのは当然だ。

同じものを見たはずの曽野氏が、私と全く正反対とも言える答えを見出した原因を挙げてみよう。まず、真実を知らなかった。白人やそれに連なる黒人団体などから白人に都合の良い解説を聞いていたのだろう。

次に、上から目線の発想だ。移民に対して同じ人間だという感覚がない。コラムの記述には仕事をさせてやっているという感覚が見える。これは昔の南ア白人の考え方だ。そして、相手の気持ちを考えない独善的態度。居住区を分けろといえば、移民の側は、低賃金でも仕事をもらえてよかったと喜ぶどころか、「差別され搾取されている」となる。欧州で、中東やアフリカの移民が持つ感情と同じ。テロの温床だ。

最後に、国際感覚の欠如。「居住を分ける」と言ったら、「アパルトヘイトだ!」となり、嫌悪感を生み出すのは世界の常識。反アパルトヘイト運動がピークの30年前の世界を知りながら、これに気づかないとは驚きだ。ここまで来ると、曽野氏には、人種差別主義者の疑いもかかってくる。

さらに問題なのは、産経新聞だ。曽野氏には、持論を述べる自由があり、産経新聞にはそれを掲載する権利がある。他方、それと反対の意見を掲載する権利もあったが、それをあえてしなかった。曽野氏と同じ病根を抱えるからだろう。

「あらゆる差別は許されないと考えている」との口先の言い逃れでは許されない。曽野氏に反対する意見を大きく掲載するべきだ。過ちを改める勇気があるのか、要注目だ。

『週刊現代』2015年3月7日号より

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