宇野亞喜良 第4回
「たしかに藤田嗣治は天才だと思います。とにかくデッサン力が抜群なんです」

撮影:立木義浩

第3回はこちらをご覧ください。

宇野 あそこに掛かっている猫の絵は、藤田嗣治のものですよね。

シマジ その通りです。わたしは日本人の画家では藤田嗣治が優れて天才だと思っています。戦争画を描いて戦争に協力したといって非難されて日本を脱出せざるを得なかった可哀相な画家ですが、あれは日本の画壇の嫉妬としか言いようがありません。晩年、彼はフランスに帰化して日本国籍を捨て、レオナール・フジタと名前まで変えています。

立木 しかしどうしてシマジのところに藤田の絵があるんだ?

シマジ モリマサというわたしの熱狂的なファンがいて、この絵は自分が所有しているよりもここに飾っておくべきだといって持ってきてくれたんですよ。わたしが藤田の絵が大好きだとエッセイに何度も書いたからでしょうね。

立木 へえ~、気前のいいファンがいるもんだね。

宇野 たしかに藤田嗣治は天才だと思います。何匹かの猫が一斉に喧嘩している凄まじい絵もありますよね。彼は、フルスピードで通りすぎて行ったオープンカーの中の複数の人物を正確に描写することができたらしいですよ。

ヒノ きっと動体視力がイチロー並で、しかもその瞬間的な映像を克明に記憶できたんでしょうね。

宇野 戦争画の筆致も並ではないですよね。「アッツ島玉砕」などは、見るからに残酷で、どちらが敵か味方かわかなないくらいの傑作です。藤田はとにかくデッサン力が抜群なんです。

シマジ じつはわたしは子さいころに、祖母から藤田のことを聞かされていたんです。祖父が軍医で朝鮮に在任中、後に軍医総監になった藤田嗣彰(つぐあきら)に可愛がられたそうで、息子嗣治の天才ぶりを聞かされていたんでしょうね。それが祖母にも伝えられたんだと思います。

いよいよ藤田が日本を捨ててニューヨーク経由でパリへ行くという新聞記事を読んだ祖母が「可哀相に、結局藤田さんの息子さんは日本を見限ってフランスへ行っちゃうのね」と寂しそうに言っていたことを覚えています。