読書人の雑誌『本』
早く・安く・安全な薬を届けるドラッグ・リポジショニングのすすめ---水島徹・著『創薬が危ない』

バブル崩壊後、日本経済はなかなか再生しない。私は、日本の産業構造が変わり、21世紀型の産業が発展しないと日本の再生はないと思っている。では、このような産業が作る製品は何だろうか?

日本人の高い給与水準と激化する国際競争を考えると、高度な知識と科学技術が必要な製品であり、かつ高くても売れる製品ということになる。薬はこのような製品の代表である。私が見る限り自力で医薬品を開発する力のある国は、米、英、仏、独、スイス、日本である。この特徴は他のハイテク製品と比べても際だっている。

また、薬の原価率は極端に低く、原価の100倍以上の値段で売ることもある。どんなに高くてもいい薬は売れるのである。一方、我が国にとって医薬品産業は成長産業と考えることも出来る。医薬品と医療機器の輸出額から輸入額を差し引いた金額は3兆円近い赤字となっている。“物作り大国日本”としては恥ずかしい限りだが、まだまだ成長の余地があることを示している。つまり、これを逆に3兆円の黒字に出来れば、2013年の貿易赤字(約11兆円)は半減できるのである。

では、薬作りの現状はどうだろうか? ここ数年大手製薬企業に利益をもたらしていた大型医薬品が特許切れとなり、経営が苦しくなっている。最近相次ぐ大手製薬企業同士の合併も、この苦しい状況をなんとか乗り切ろうとする苦肉の策である。この問題の本質は、新薬が出なくなっていることであり、その主な原因は、動物では安全であった薬でも、臨床試験で予期せぬ副作用が見つかって医薬品開発が失敗していることである。

一方、薬剤費の高騰も大きな社会問題になっている。

抗体医薬品の普及などにより、年間薬剤費が1000万円を超える薬も珍しくなくなった。我が国で進行する少子高齢化を考えると、このままでは我が国が誇る国民皆保険制度は崩壊し、医療難民が産まれることが危惧されている。

これらの現状を考えると、安く確実に安全な薬を開発する次世代の創薬戦略が求められる。以下に私が実践しているアイデアを紹介しよう。

それは、新しい薬を使った医薬品開発が副作用などの問題でうまく行かないなら、人間での安全性が確認されている古い薬の新しい効果を発見し、別の病気へ応用する(適応拡大する)という戦略であり、ドラッグ・リポジショニングと呼ばれている。例えば、リアップ(増毛剤)やバイアグラ(勃起不全治療薬)は元々心血管系の薬であったが、これらの新しい効果が発見され、ドラッグ・リポジショニングの成功例となった。

この戦略の利点は、既に安全性が確認されているので、開発失敗のリスクが少ないことに加え、既にあるデータや技術(動物での安全性試験結果や製造技術など)を再利用することで、開発にかかる時間とコストを削減できることである。我々はこの戦略で研究を行い、古い薬の新しい効果を数多く発見してきた。