読書人の雑誌『本』
「タレント」―企業の富を生み出す人々---酒井崇男・著『「タレント」の時代』

=> 酒井崇男さんのインタビュー記事はこちらをご覧ください

「酒井さん、タレント・マネジメントって結局どういうことなんですか?」

最近は外資系企業の人事部門だけでなく、日本企業の一部ですら「タレント」という言葉が日常的に使われるようになってきた。「タレント」(=才能、才能ある人)とは日本語で言えば、「人材」ならぬ「人財」という意味である。

タレント・マネジメントとは、人財管理のことである。同じ人材でも、会計上の「費用」として扱ってきた人材(Human Resource)ではなく、資産として扱う「人財」(Talent Management)と言ったらよいだろうか。資産である人財なのだから、もちろん、利益を生み出すことに貢献する人達からハタラキを引きだそうというわけである。タレントを理解した上で、彼らを生かす組織を作り、組み合わせ、成果を最大化することが目的である。

外資系企業では、採用担当者の名刺が「Head of Recruiting」から「Head of Talent Acquisition」になっている。もしくは「Talent Acquisition Lead」などに変更されている。しかし天下り的に変更された名刺の「タレント」の意味を正確に理解している担当者は現実にはほとんどいない。そこで、正直な人は、冒頭のセリフに続けて「私の名刺の役職変わったんですけど、酒井さん、結局これどういう意味なんですかね?」

というわけである。

「タレントとは何か?」ということについて、タレント・マネジメントやタレント・アクイジションを行うことを期待されている人達ですら、実際には正確に理解が進んでいないのが現状である。

それには理由がある。人間の労働と企業の利益の関係、あるいは、知識や才能と企業の利益の関係といったものを、これまで誰も体系的に説明してこなかったからである。つまり日常的には、「わかる人にはわかる」で済まされてきた種類の事柄だった。

どの職場でもタレント・マネジメントが重要なことは、日常的には誰もが分かっているが、これまでは、まともな教科書すらなかった。

今日、工場に出かけていけば、工場で行われていた肉体労働は、ほとんど機械化されている。オフィスでも文書作成や会計、日程管理などの事務労働のような定型的な労働は、業務ソフトウエアに代替されている。もしくは、より人件費の安い海外の人にオフショアされていたり、非正規の労働者に代替されている。そうしなければ、一般的な企業は市場競争に負けてしまうからである。

つまり、従来経済学が「労働」と捉えてきた労働は、現在、高い付加価値を生み出す種類の労働ではなくなった。

では、今日的に利益を生む、付加価値を生む人間の「労働」とはどう捉えたらよいか?

じつは多くの人が、日常的に気がついているように、今日、我々の労働とは、「意味のある情報資産(ストック)」を生み出すことなのである。例えば、それは、製品そのものかも知れないし、ニーズを調査し、企画し、設計し、製造し、販売するというような、ビジネスプロセス(=フロー)に関するノウハウ(情報資産)だったりするわけだ。

製品そのものも、クルマやiPhoneのような工業製品でも、「設計情報」という情報を、売れるとき、売れる順番に、実体ある「モノ」に工場で変換しているに過ぎない。

つまり、日本のように、天然資源ではなく、人工物財の比率の高い先進国では、経済的付加価値の高い「情報財」をつくることが、利益を生む仕事である。それは、プロダクト(内容)に関することかも知れないし、プロセス(方法)に関することかも知れない。