中国
国家主席が誇る「偉大なる人民」が、銀座で"爆買い"に走った2015年の春節
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「洋風の街」を襲う東洋発の「衝撃」

2月19日の春節(中国の旧正月)の午後、銀座の中央通りを、1丁目から8丁目まで歩いてみた。前日の小雪やみぞれは消え去り、ぽっかりと晴れ渡った澄み切った空だった。

だが銀座通りは、いつになく騒々しかった。普段は紳士淑女がおめかしして銀ブラする中央通りも並木通りも、ジャージにジャンパー姿だったり、髪の毛ボサボサだったりする声高な人々に占拠されていた。一面の観光バスと「漢語」。まるで北京の王府井か上海の南京路が、東京で再現されたかのようだった。"ギンザ・チャイナタウン"の出現と言ってもよい。おそらく銀座150年の歴史で初めての光景ではなかろうか。

周知のように現在の銀座は、明治維新後に、文明開化の象徴としてガス灯やレンガ造りの建物が整備された。いわば日本初の「洋風の街」である。

私が記憶している最初の銀座は、1971年に三越銀座店の1階にオープンしたマクドナルドだった。祖母に手を引かれて歌舞伎座で歌舞伎を観た後に、初めてこの「アメリカの館」の前を通って仰天した。店内も周辺も大混雑で、何より驚いたのは、歩きながらハンバーガーを頬張っているジーンズに長髪姿の若者たちだった。祖母はそんな彼らを、「犬でもあるまいし」と言って、侮蔑するように眺めていたものだ。

1996年に、松屋デパートの裏手にスターバックス日本1号店がオープンした時も、ひとしきり話題になった。この店もいつも混雑していたが、私は足繁く通った。それは当時、ほとんど都内唯一の店内全面禁煙の喫茶店だったからである。タバコの煙が何よりも嫌いだった私は、ただ「煙にまみれていないコーヒー」を飲むだけのために、地下鉄有楽町線に30分近くも揺られてスタバに通い詰めたものだ。

いまにして思えば、銀座の街が過去150年近くにわたって受け容れてきた大小様々な「衝撃」は、そのほとんどが欧米の新たな文化の流入だった。欧米のブランドショップから著名なフレンチレストランまで、こぞって銀座に出店した。そのたびに銀座の街並みは、たちまちそれらを景観の中に受容してしまった。そもそもの街の成り立ちからして欧米文化の流入だったのだから、たとえマックが来ようがスタバが来ようが、すべては「許容範囲内」だったのだ。

だが今回の「衝撃」は、東洋の新興国から来たものであることが、過去と異なっている。しかも、昨年末に内閣府が発表した「外交に関する世論調査」によれば、日本人の83.1%が「中国に親しみを感じない」と答えている。そのような中国から来た人々を、「日本一プライドが高い街」が許容するのかどうかが、私の関心事だった。

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銀座における中国人観光客のメッカは、2013年11月に7丁目に建ったラオックスである。店内を訪れる客はほぼ全員が外国人で、その大半が中国人で占められている。そもそもラオックスは2009年8月に、中国の大手家電量販店の蘇寧雲商が買収しているから、ラオックス自体がすでに中国企業なのである。

実際、ラオックスを訪れると、店は「爆買いバブル」に沸いていた。中国人観光客を乗せたバスがひっきりなしにラオックスの前に着き、旅館の女中のような浴衣姿の女性たちが「歓迎光臨!」(いらっしゃいませ)と中国語で出迎える。

ステンレスボトル(水筒)、南部鉄瓶、スーツケース・・・。1階から3階まで所狭しと並べられた商品はすべて、中国人向けである。店内の男性用トイレにも、「一歩前へ出て用を足しましょう」とか「喫煙してセンターが感知したら罰金1万円を申し受けます」と言った中国語の注意書きが貼られていた。

日本のマスコミは、「爆買い」というキャッチコピーで、中国人観光客ラッシュを報じていた。実際、銀座通りのあちこちの店の前に張りついたテレビ局のスタッフたちは、「××で爆買い中国人発見」などと携帯電話で連絡を取り合いながら、東に西に駆けずり回っていた。

しかし、今回、私が銀座を歩いて感じたのは、日本経済の活性化を外需に頼ることの危うさである。いまは中国で「日本旅行ブーム」が起こっているから大量の観光客が来て「爆買い」してくれるが、習近平主席が一言、「日本へは行くな」と国民に指令を出したらどうなるか。ラオックス以下、中国人観光客に頼っていた業界は、一貫の終わりである。

中国は、日本とは政治システムの異なる社会主義国家であることを忘れてはならない。いまの微妙な日中関係を鑑みると、近未来にそのような事態が起こらないとは、誰にも保証できない。銀座も他の日本の観光地も同様だが、中国人観光客には感謝しつつも、彼らだけに頼るのではない地域の活性化策を考えるべきだろう。

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